情報検証研究所のブログ

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【中国の「世論戦」に巻き込まれる日本とIOC】 ~中国ワクチン外交は「三戦」戦略の一環だろう~

オリンピック・パラリンピックでは、そのオリンピック憲章において「政治的中立」を謳っております。しかし過去を振り返るならばその実態は、開催や参加自体が「政治的メッセージ」を帯びた国際行事となっております。今回の東京大会もまた、その色合いが強まってきました。
 
◆ 「中国製ワクチン」とIOC
NHKの報道によれば、IOCバッハ会長はオリンピックとパラリンピックに参加する選手や関係者に中国製のワクチンを提供する考えがあることを明らかにたとのことです。
IOCの定例の総会は今月10日から3日間の日程で始まり、(中略)
バッハ会長が発言を求め、中国のオリンピック委員会から「東京大会と北京大会の選手や関係者に対して中国製のワクチンを提供する」という申し出があったことを明らかにしました。
バッハ会長はIOCが費用の負担を行う」と述べて、オリンピックとパラリンピックに参加する選手や関係者に中国製のワクチンを提供する考えがあることを明らかにしました。(NHK NEWS WEB3月12日より引用、太字は筆者)”

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210311/k10012910671000.html?fbclid=IwAR2qRe-PysTBP7rLfMnRl7M97YbcQHwIEyy656hnPdI1NU7U2-cjuZ0nIDg

 

 
この報道が事実ならば、この動きは、米国国防長官府の年次報告書(2019年※)が指摘する、中国による「印象操作(影響工作):Influence operations」の一環であり、「三戦戦略」のうちの心理戦または世論戦にそった活動の可能性があるでしょう。
※ 「中華人民共和国の軍事動向に関する年次報告書(Military and Security Developments Involving the People's Republic of China)」
  
 
◆ 年次報告書が指摘する、中国の印象操作(影響工作)
前掲の年次報告書が指摘する中国の印象操作(影響工作)について、概要を説明している部分を、当該報告書から抜粋します。(太字は筆者)
人民解放軍は、少なくとも2003年以来、その作戦計画における「三戦」戦略の発展を強調してきた。「三戦」は、心理戦、世論戦、および法律戦からなる。”
心理戦は、敵の意思決定能力に影響を与えるために、プロパガンダ、欺瞞、脅し、および強制を用いるものである。”
世論戦は、世論を導き、それに影響を与え、国内および国外の人々(audience)から支持を獲得するために、公の目に触れる形で情報を発信するものである。”
”中国は、この戦略に合致した形で、自らの安全保障上および軍事戦略上の目標にとって好ましい結果を達成するべく、米国、その他の国々、および国際機関の文化組織、メディア組織、ならびにビジネス、学術、および政策コミュニティに対し、影響工作を実施している。
米国国防長官府 2019年 年次報告書(の和訳):

https://www.jiia.or.jp/research/2020/03/PDF/3770be1c254ef4adddd9650fb880b5ddf6886959.pdf?fbclid=IwAR03ouq6T9SV6UlrSp6ol3jUtrFp-tTKPxdmDYZ2u5TGzhUo-utt5IvH2LIhttps://www.jiia.or.jp/.../3770be1c254ef4adddd9650fb880b5...

 

  
 
◆ 中国にとって好都合なナラティブ(物語)
感染症の世界的流行と中国ワクチンでの克服は、中国の心理戦または世論戦にとって、現在のみならず、将来にわたって大変好都合なストーリーの素材となります。五輪はその象徴的な事象として彼らが紡ぐ物語(ナラティブ)に利用されるでしょう。
物語ではワクチンの性能や実際の流行抑止効果の評価は問いません。そうではなくて、事実として「中国製のワクチン」が「五輪関係者に配られ」、その後時系列的整合性のあるかたちで「流行が抑制され」、「五輪が開催できた」という事実を紡ぐことだけが重要です。
その事実さえあれば、以後100年単位で「中国が世界をパンデミックから救った」という物語として、彼らが目指す世論形成(例えば「世界に貢献する中国」のような評価)に貢献し続けるでしょう。
 
そういう観点では、仮に東京五輪が中止された場合、翌年の北京五輪と比較され「中国の光輝」を際立たせる「陰影としての日本」という立ち位置を形成しかねません。また、東京五輪を実施できた場合でも、中国ワクチンを利用したならば、中国の世論戦に貢献することになるでしょう。
 
報道の真偽はともかく、IOCと中国の関係は確かに気がかりです。日本は開催に向けて進んでおりますが、これ以上の波乱が起きないことを祈ります。
 
(おわり)
 

【文責:田村和広】

 


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