情報検証研究所のブログ

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【「白髪三千丈」の国、中国 】 ~諸問題の源泉(基因)は文化的差異~

福島原発の「トリチウムを含む水」に関する中国の政治的広報戦は想定の範囲内の動きです。しかし、活性期間がやや長く、言及する対象が拡がる傾向も見られます。その背景は何でしょうか?
 
例えば、中国のホワイトプロパガンダサイト「チャイナネット(※)」では、放出決定から約一週間後になっても未だに、次のようなオピニオンを発信しております。
 
日本は完全な「非核化」を実現すべき”
”汚染水の海洋放出は全人類の安全を脅かす可能性がある。日本のこの極めて無責任な行為に対して、国際社会は団結し日本の「非核化」を促し、その潜在的な「核の脅威」を徹底的に解消すべきだ。”
”日本はさらに概念をすり替え、汚染水を「処理水」と呼び、世論を惑わそうとしている。注意すべきは、信頼を完全に失った日本政府はさらに多くの核原料を握っていることで、これは間違いなく全人類の潜在的な脅威だ。”
”今回の汚染水放出問題の無責任ぶりのほか、日本の右翼政治家は戦争の罪の反省を拒否し、侵略の歴史を絶えず美化している。これは日本の侵略を受けたアジア諸国を不安にさせている。”
”日本は平和的な原子力の利用を口実とし、長期的に核融合及び高速中性子の増殖の研究を長期的に展開し、すでに核兵器製造の技術を蓄積しているとする見方が一般的だ。さらに日本の発達した工業、潤沢な資金、十分な核原料があり、外部環境の許可があればいつでも短時間内に驚異的な数の核兵器を製造できる。多くの日本の右翼政治家はかつて、「日本はいつでも原爆を作れる」と暴言を吐いたことがある。”
”国際社会は今回は共同で日本に圧力をかけ、日本政府に決定を撤回させ、少なくともオープンで透明性のある形式でIAEAの監督と審査を受け、国際社会、特に中韓などの周辺諸国に関連情報を公開するよう求めるべきだ。
米日両国は世界で唯一核兵器を使用し、核兵器の攻撃を受けた国だ。日本の非核化の問題をめぐり、米国はダブルスタンダードを掲げ、自国の利益のために全人類の利益を脅かす危険な同盟国の肩を持つべきではない。我々は国連を中心とする国際機関、環境団体、関連国と団結し、日本の非核化の完全な実現を共に促進することを願う。”
(以上、チャイナネットより抜粋、太字は筆者)

http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2021-04/19/content_77420096.htm?fbclid=IwAR0dMAhP-stc1Y6ZL1tlDhmKC3dG0-1LN7ci3Vrob8ws5sMH9denjls1SWA

 

※ チャイナネットとは…「チャイナネット」(中国網)は10カ国、11種類の言語(中国語の繁体字も含む)によって情報を発信し、世界じゅういたるところの読者にとっての中国を知る窓口となり、5000年の中国文明と改革開放後の躍進ぶりを知っていただくことにしています。読者の皆様はインターネットを利用して、世界の大家庭の一員である中国の息吹きとその足取りをリアルに感じていただくことができるものと信じています。
(中国国務院新聞弁公室の授権でニュースや情報を発布、以上チャイナネット「about us」より抜粋)

http://japanese.china.org.cn/archive2006/txt/2007-11/07/content_9188603.htm?fbclid=IwAR30UDLaAcAQ1tntnNah_bnWkLEiScyLT6dJ1wWfbI_dA5EIbJ9JIKDx7ak

 

  
 
◆ 日本の「非核化」?
日本が「いつでも核兵器を作成・保有できる国」と見做されていることは事実でしょう。しかし現実には製造も保有(共有)もせず、米国という核保有国の影響力に間接的に守られているだけです。しかし中国側の言説からは、核兵器保有国と同じ扱いを受けているようです。なぜ中国は、日本国内のことにこれほど注文を付けてくるのでしょうか?
 
◆ 米国への報復を米国陣営の国に
孟晩舟・ファーウェイ副会長兼最高財務責任者CFO)がカナダで拘束された際、中国はカナダ人外交官ら2名をスパイ行為を理由に拘束しましたが、これは報復だと見られております。米国による中国への締め付けに対し中国は、直接米国にではなく、米国側の第三国に対して報復します。これは中国の定常的なリアクションです。
  
 
◆ 「トリチウムを含む水」放出決定はタイムリ
日米首脳会談における台湾の取り扱いに関して、米国と日本が鮮明に打ち出した強硬姿勢には、当然中国も反撃することが予想されます。とりわけ、言論で攻撃しやすい日本をターゲットとして陰に陽に長期的に言論で攻めてくるでしょう。その観点で、「トリチウムを含む水」の海洋放出決定はタイムリーでした。
  
 
◆ 「科学的な説明」だけの問題ではない
日本は、科学的に妥当であることを説明し続け、IAEAのような外部機関の助けも借りて、”transparency”(透明性)を確保しながら進めて行くことは必要条件の一つです。しかしそれだけでは十分ではありません。
第一に、中国は科学的な妥当性は十分認識しながら危険性を殊更に煽っていることを一層強く理解することが大切です。これは世論戦であり、知識と関心の少ない大多数の国内外の人々(国々)を味方につけるための情報発信なので、それを凌駕する「頻度」「分かり易さ」「配信量」で戦わなくてはならないのです。
第二に、長期にわたり継続して情報発信することも大切です。日中間の「思考の時間軸の違い」を理解することが大切です。相対的に、日本人は短期的な思考に基づく傾向があると思われます。
例えば、2030年は今からおよそ9年後ですから、今17~18歳(高校3年生)の国民が26~27歳になる時期です。つまり、目先だけを見れば、今学生教育で「トリチウム」や「α線β線x線の違い」について指導しても殆ど意味を感じませんが、2030年には極めて重要な意味があります。まして2050年となれば今から29年後です。2021年の今から原子力についての科学的な知識を充実させたならば、2050年には活発に情報発信し世論を形成する中心層となっているでしょう。しかし、今の為政者で、「30年後を見据え、戦略的な意図をもって、科学的な教育カリキュラムを大きく変更しよう」と考える人はそう多くないのではないでしょうか?
確かに科学教育や情報取り扱い教育を充実させようという動きはありそうですが、大学入試の共通テストの問題や、今年の中高教科書を見ていて落胆しました。結局「PISA」における日本の順位を上げようという意図を感じる変化に過ぎなかったからです。つまり「思考力」ではなくて「情報取得と処理の能力」という「目先の作業的」読解力を上げようという程度の目先の変更しか見受けられませんでした。(個人的感想)
 
◆ 表層的な問題認識と解決策
結局、日本の特徴的な弱点がここでも露呈しているように感じます。つまり、
  1. 「問題認識が浅く短絡的」
  2. 「そのため、解決策も表層的なものに留まる」
  3. 「対策したからこれで十分だとして、むしろ本質的な問題の解決に至らない」
これを次のように喩えて見ます。
「白髪三千丈」といえば李白の詩の一部ですが、「乱れて伸びたこの白髪、これも心の憂さのせいで…」という誇張した情緒的表現です。しかし、今の日本の対応はまるで、次のやり取りの要です。
 
[ 中国表明 ]:「白髪三千丈だ!」
[ 日本読解 ]:「え!白髪が9,000mも伸びたのですか?」
[ 日本対応]:
  1. 「では9,000m分の白髪染めを差し上げます。」
  2. 「心的な憂鬱さが身体的な変化の原因かどうか調べましょう。」
  3. 「伸びを遅くしましょう。通常9,000m伸びるには7万年かかり…」
 
このように、真意の読解や解法の方向がずれているように感じます。
  
 
◆ 諸問題の源泉(基因)は文化的差異
トリチウムを含む水」の海洋放出に関し、中国(と韓国)の理不尽な反応については、表面的に彼らの要望に誠実に応じても、問題は全く解決されません。むしろ、次から次へと理不尽な要求が一層グレードアップするだけでしょう。それは今までの諸問題の経過に照らせば自明です。
中国大陸で活動する民族や国々は、日本とは異質な文化を形成しており、日本的な思考の枠組みでは、理解も対抗も難しいのが現実です。例えば長期的な恨みの反日教育で国民を育み、反日マインドが喜ぶ「反日的ストーリー」を流し込み、反日世論を形成して行く政策にどう対抗すべきなのかもよくわかりません。また、国連の”お墨付き”を悪用し、「人権問題の専門家をして無理やり原発問題を人権問題化させる」手法など、ただ言葉を失うだけです。
 
日中韓で表面で起きている問題には、その現象の奥深くに、ある種の文化ギャップが通底しております。ここを深く理解しない限り、何事も上手く対処できないでしょう。少なくとも白村江あたりから約1400年もの間、大陸側の国と争うと日本がいつも苦い思いをするのは、結局この文化ギャップという基因を理解できないからではないでしょうか。
日本の政治家やマスメディアのみならず国民総出でこのギャップを直視し、現実的に対応すべき時が来ているのでしょう。
  
  
(おわり)
参考サイト:

http://japanese.china.org.cn/

 

【文責:田村和広】

 

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