情報検証研究所のブログ

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【提案:「炭素格付け機関」や「公認炭素会計士」の提唱を】 ~「脱炭素」は「言葉の黒魔術師」たちとの戦いだから~

オイルショック以来省エネに努力しつづけ、世界に占めるCO2排出比率がたかだか3%の日本が、更に26%削減しても世界の0.8%しか削減効果がありません。その一方で、世界最大のCO2排出国(約30%)である中国は、「2030年に排出量をピークアウト(※)」という緩い目標で称賛されております。
(※ 最新状況は確認の必要あり) 
 
しかし、
“「中国は新興国(≒途上国?)」だからOK”、あるいは“パリ協定には「努力を強化する義務を負う」という法的拘束力があるから中国を含む各国が、厳しい目標達成に向けて努力するはずである”という話で言葉を失うのは、私だけでしょうか。
アメリカも、大統領が風呂敷を広げて約束しても「議会が承認しないからその話はなかったことに」論法があるので信用できませんし、ドイツもチェルノブイリ以来の環境保護感情やホロコーストの反動としての道徳的評価への渇望は、難解な民意を形成しがちです。昭和14年平沼騏一郎は「欧洲の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」として総辞職しましたが、元々日本人は私も含めて国際情勢を深く理解することが苦手なのでしょうか。
 
パリ協定の結論が地球環境にプラスだというので勉強したのですが、ちょっと理解できませんでした。
“ パリでは、純粋に「科学的合理性」からではなく、「政治的合理性」の材料になる「科学的ストーリー」を選んで、(論理破綻も疑われる)玉虫色の協定(多国間国際条約)を結んだ ”
このような理解しかできませんでした。
 
要するに、『「脱炭素」の戦いは「言葉の黒魔術師」たちとの戦いだ』と理解しました。
 
 
◆ 「言葉の黒魔術」…現実と背馳する恣意的な名づけ
「言葉の黒魔術」とは、香西秀信氏が自身の書籍で紹介している言葉です。言及している部分から引用します。
 
“革命前ロシアの論理学者C・ポバルニンは、このような詭弁的な名づけ、詐称を「言葉の黒魔術」と呼んだ。われわれは何かを主張するときには根拠が必要であるということを知っている。とすれば「名づけるということもまた確実な根拠にもとづいたものでなくてはならない。」「にもかかわらず、人々は、思考の怠惰その他多くの原因から、とりわけこの種の隠された根拠については、特に点検もせず、そのまま信用してしまいがちである。」
(「論より詭弁 反論理的思考のすすめ」香西秀信著より引用、ロシア語の補足部分は省略した)”
 
 
◆ 未だに中国が「新興国」?
中国は「新興国」(途上国)ということで、CO2削減努力が非常に緩いわけですが、世界第二位の経済大国で、遠くない時期に一位の米国を抜く可能性もあるような経済・軍事大国が、「新興国」ならば、米国さえも歴史の浅い「新興国」と言えるでしょう。「途上国」に対して日本は開発援助を行っておりますが、たとえば外務省の「DAC援助受取国・地域リスト(2007)(※)」には、インドは載っておりますが中国はありません。またリストにはアフリカを中心とする「確かに途上国だ」と一目で納得できる国々が載っております。

 

中国による「新興国」という主張を受け入れてでもパリ協定に参加させることに意味があったのでしょう。あるいは中国市場に依存し、あるいは資産や企業を「人質」に取られている欧州諸国は、つよく要求できなかったのでしょう。しかし、もはや「温暖化抑止」の範疇ではないでしょう。そもそも中国に約束を期待するのはナイーブな日本人だけなのではないでしょうか?
「相手を縛る法は厳格に適用を強いて、自分を縛る法は“紙くず”として無視する(※)」、「トータルで自分にメリットがある約束は守り、デメリットとなる約束は反故にする」、「相手に対抗するためならば、事実に反することでさえ主張する(※)」という性質のある国は、一般的に全く信用できません。
※ 仲裁裁判所判決を「紙くず」 無法中国への最大の反撃 (ironna.jp) 

https://ironna.jp/article/4466?p=4

※ 中国初の空母購入の内幕…「スクラップと値切り倒し、カジノ用と言い逃れ」実業家が香港紙に明かす(1/2ページ) - 産経ニュース (sankei.com)

https://www.sankei.com/world/news/150211/wor1502110002-n1.html?fbclid=IwAR10W_fSBxQM57OthRCrh1iY0MKCshg1IxSfPYOV6JZwBbJlCTOqc3bcgBM

 

  
 
◆ 「脱炭素」は「言葉の黒魔術師」たちとの戦い
「20世紀以降CO2濃度が上昇トレンドにある」は事実でしょう。「CO2濃度の上昇は地球温暖化に影響がある」というのも事実でしょう。従って「CO2を削減することが望ましい」という主張も理解できます。しかし現状の枠組みが「CO2濃度の上昇を抑制する効果が十分見込める」とは思えません。
「だから前倒ししなくてはならない」という動きが加速しておりますが、「砂の基礎の上に立派な建物」を建てようとしているだけにしか見えません。
京都議定書でひっかかった罠に、日本は改めて嵌ってしまうのでしょうか。
 
一番CO2を排出している中国に歯止めがかけられず、2番目にCO2を排出している米国はエネルギー産出大国でもあり大統領・議会の二重構造でおそらく排出量を大きく削減することはできないでしょう。
「脱炭素」に向けて原発を2022年に全停止するとしているドイツは「褐炭」の産出国であり、CO2排出量は短期的には増加しており、再エネ電力買取制度の失敗で電力は高価格商品です。ドイツはチェルノブイリ(当時ソ連)事故で放射性物質を浴びた経験から、脱原発は国民の願いだったようです。そこに「日本(のような馬鹿真面目な国民性の国)でさえも事故を防げない」という「脱原発マインドを鼓舞する事実」を受けて、原発廃止を民意で決めました。その結果ロシアのガスに頼ることになるのは皮肉です。
  
 
◆ 「脱炭素世界大戦」には公正な審判が必要
脱炭素の流れが止まらないのであれば、その中で溺れないように対処せざるを得ません。世界中を巻き込む、極めて大きな価値観の争い(変動)なので、「脱炭素世界大戦」と呼びたいくらいです。この「世界大戦」の主要なプレーヤーは、既述の通り、有力な「言葉の黒魔術師」たちです。おそらく日本に言論戦での勝ち目はないでしょう。
それでもこの戦いに生き残って、次世代に希望の光を感じてもらえるようにする義務は、私達の世代にあるでしょう。
 
そこで、日本は「炭素格付け機関」や「公認炭素会計士」を提唱してみては如何でしょうか?
 
LCAの仕組みを勉強してわかったのですが、CO2排出量については、「実測値」ではなくデータに基づいた計算値のようです。(確かに、全ての活動を計測していては、コストが激増するので現実的ではありません。)そして、一般人の私たちにとって今の状態はまだ計算が困難で、例えば「食品のカロリー計算」のようにはいきません。
つまり極論すると、今の段階では「事実」の戦いではなく「言ったもの勝ち」の戦いです。その場合、中国や欧州や米国といった「言葉の黒魔術師」達に、日本は高い確率で敗北するでしょう。なぜなら日本は「嘘へ罪悪感」や「誠実さ」や「約束を守る心」や「遵法精神」を育む傾向が強いので、言葉巧みに「クロもシロ」という詭弁を弄する(強弁する)相手にとっては最も戦いやすい相手だからです。
例えば最近では、WHOが中国にSARS-CoV-2の起源について等の調査に行きましたが、肝心なデータにはアクセスを拒否され、驚くことに調査報告は被調査国である中国が許可したことしか報告できていないようなのです。リットン調査団と対比すれば、私達にとってはその異様さが際立ちますが、彼らにとってそれは勝利なのでしょう。これで中立的国際機関からの「お墨付き」を手にしたので、これから中国は、一層積極的な言説を展開するでしょう。
 
これから中国や欧州が提出してくる「脱炭素」の実績は、信頼可能でしょうか?
確かに全てが嘘ではないでしょう。しかし嘘が混じっていないということもないでしょう。そしてそれを検証しようとすれば、きっと査察は拒否されるでしょう。つまり、今の枠組みでは、彼らを公正なフィールドに登場させて透明な競争をさせることができないでしょう。
それならば、脱炭素の効果について、国際的な標準を取り決め、金融市場における格付け機関のような存在(仮に「炭素格付け機関」と呼びます)を作ってはいかがでしょうか。その機関では各国の取り組みの自主報告の信頼性を高めるための審査機能を担います。
更にその計算の公正さを追求する一つの手段として、倫理的に誠実に遂行する人材(仮に「公認炭素会計士」と呼びます)を世界中に育てては如何でしょうか。(イメージは公認会計士や弁護士のカテゴリーです。)
脱炭素の戦いにおいて、このような公平な比較を追い求める仕組みを求めることが、言論戦の弱者である日本の戦い方ではないでしょうか。
 
 今から百年前の1919年、日本は国際連盟において、人種差別撤廃に関する提案をしましたが米大統領に退けられました。しかし人種差別撤廃を世界に訴求した事実は、歴史の中で燦然と輝き続ける日本人の心の財産となりました。
今は時代の変革期です。たとえ否決されるとしても、「公正なフィールド」を求める行為は、次の精神的財産となる可能性があるのではないでしょうか。
 
 
(おわり)
 
【文責:田村和広】
 
 

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