情報検証研究所のブログ

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【「科学的」とはどういうことか】 ~事例検証:「酸性雨で森が枯死」仮説~

近年「脱炭素」が連呼され、「CO2(二酸化炭素)」が、その温暖化効果で地球環境を破壊する」説が「科学的な事実」として世界を主導しております。それが「科学的」に考慮した場合に妥当な見解なのかどうか、私には良くわかりません。つまり肯定説であれ否定説であれ、どちらにも「疑う余地のない科学的な根拠」があるようにはまだ思えません。(私に理解できないだけの可能性も十分あります。)
 
ところで「科学的」とは一体どういうことでしょうか。
今回は、「CO2」以前に重大な問題とされてきた「酸性雨で森が枯れる」仮説をケーススタディとして検証し、「科学的」という考え方について確認して行きます。
 
◆ 1970年頃には既に「酸性雨の悪影響」が問題化
例えばウェザーニュースの記事によれば、1970年代には既に、日本でも環境に対する「酸性雨」の「深刻な悪影響」が報告されておりました。当時酸性雨は最大の地球環境問題」だと考えられていたとされます。
“1970年代になると、日本でも酸性雨による被害報告が相次ぎました。「雨に打たれた野菜の葉が変色した」「雨が目にしみる」「山の木が枯れている」などなど。建築物の被害は、銅ぶきの屋根が腐食した、コンクリートが溶けてつらら状に垂れ下がる、鉄筋の腐食が進んでいるといった報告が上がりました。酸性雨は最大の地球環境問題となったのです。(ウェザーニュース2019年6月6日より引用)”
いま、酸性雨はどうなっているの? - ウェザーニュース (weathernews.jp)
 
30年前私は、森の心配はしませんでしたが「酸性雨を浴びると禿げる」と言われ、頭を雨で濡らさないように気を付けていたことを思い出します。
  
 
◆ 「酸性雨」のいま
最近では「酸性雨」が環境破壊につながるという報道を目にすることは余りありません。
かつて「旧西ドイツの黒い森は酸性雨の被害で多くの木々が枯死した」と言われましたが、今は乾燥が原因とされています。その後の調査で、「(樹木には)pH3までは影響がなく、pH2になると生育が悪くなることがわかった」と言われます。
“「酸性雨に関して風向きが変わったのは、2000年頃です。植物学者が酸性度の違う水を樹木にかけて生育度を調べました。すると、pH3までは影響がなく、pH2になると生育が悪くなることがわかったのです」(ウェザーニュースより)”
また、国立環境研究所の論考では、欧米における森林の衰退の原因として、最近は、「酸性雨の直接的影響」ではなく「光化学オキシダント等(オゾン等)」の影響が示唆されているとしております。
“欧米における森林枯損の原因は酸性雨であるとの話が広く行き渡っている。また,酸性雨による土壌の酸性化によって土壌中のアルミニウムが溶出し,植物が養分を吸収する場である根系に影響を及ぼし,植物全体の生長を減衰させ枯死に至らしめるとも言われている。しかし,pHの低い雨が降っただけで木が枯れて森林が衰退することは考えにくい。一般に,植物に低いpHの水をかけてもpHが3以上では葉面に可視傷害は現れてこない。さらに,土壌の酸性化は主として土地の利用形態が変化した時に起きやすく,酸性雨による酸性化の程度は一般には極めて少ないと言われている。”
“欧米における森林の衰退の原因として,最近は,酸性雨の直接的影響ではなく,光化学オキシダント等のガス状大気汚染物質による影響が示唆されている。とりわけヨーロッパでは,これまでの大気汚染の主要因はSO2やNO2であり,O3等の光化学オキシダントは大気汚染物質として重要視されてこなかった。そのため,SO2やNO2が雨水中に溶けこんでpHを低下させ酸性雨となって植生や土壌に影響をおよぼし森林の衰退がおこったと考えたのであろう。(国立環境研究所の論考より引用)”
酸性雨によって植物は枯れる?|国環研ニュース 8巻|国立環境研究所 (nies.go.jp)
 
つまり、当初は「酸性雨が植生や土壌に悪影響」と考えられましたが、その後の研究で、
酸性雨自体の影響はなく」、オゾン等、従来「大気汚染物質」とは認識されていなかったものからの影響
であると考えられているということです。
 
環境省も2019年に、大気汚染と森林衰退の因果関係を明確に否定しております。
“森林生態系については、大気汚染が原因とみられる森林の衰退などは、現状では確認されていません。”
環境省_我が国における酸性雨の状況及び長期モニタリング計画の改訂について (env.go.jp) 

https://www.env.go.jp/press/106617.html

  
 
◆ 断定と誤謬で国民を啓発するNHK
NHK は、「WEB特集 ドイツに学ぶ地球温暖化対策」と題して、国民を啓発する情報を配信(2021年2月24日)しております。しかしその論説は断定と誤謬に基づいており、納得しにくいものがあります。以下何点か引用して参ります。
“世界の気温上昇に、歯止めがかかりません。私たちは、地球温暖化対策のために何ができるのか、考えましょう。”
“私たちは、どう取り組んだらよいのか、環境先進国といわれるドイツの市民の意識からヒントを探りましょう。”
NHKによれば、ドイツは「環境先進国」と言われているそうです。「環境先進国」とは、「(怪しい)定義又はイメージで、諸国を差異化・序列化する」恐ろしい言葉です。その「環境先進国ドイツに学べ」とNHKは言っているので、「私達(日本)は環境先進国ではない」と(乱暴にも前提として)断定されている可能性を感じます。
とはいえ、欧州全体では風力や水力に加え、原子力を活用してCO2排出を抑制できている一方、諸事情で原子力の比率が低く抑えられ火力に頼らざるを得ない日本は、「CO2排出」の観点で比較するなら確かに遅れていると言えるでしょう。
 
“ドイツ南西部の森の木々を枯らした、酸性雨。”
この一文は、因果関係に関する現在の「科学的」な解釈に照らせば、誤謬と言えるでしょう。「ドイツ南西部の森」とはシュヴァルツヴァルト(黒い森)を指すと考えられますが、それが枯れた原因は「酸性雨」ではなく「乾燥」又は「オゾン等光化学オキシダント」とされるからです。今でも「酸性雨」で枯れたとみられているのは「ドイツ南西部(旧西ドイツ)の森」ではなく、「チェコ旧東ドイツポーランド国境に広がる黒い三角地帯」の樹木です。
(以上「WEB特集 ドイツに学ぶ地球温暖化対策 | 環境 | NHKニュース」より引用、太字は筆者)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210224/k10012882671000.html?utm_int=detail_contents_news-link_003&fbclid=IwAR1W9AF7MJ11xuq9a4cfDZZXZSsH3f49vHRKNFg9-dZ7BYYhyofM0cF1TaU

 

 
もちろん、私も含めて人は間違いを犯すものですが、NHKは公共放送であり一般的に信用が高い組織なのですから、(不勉強に基づくと思われる)教条的または独善的な言説はできれば改めたほうがいいかもしれません。少なくとも知見のアップデートはした方がよさそうです。
 
◆ 「科学的」とはどういうことか
「『科学的』とはどういうことか」という問いに対して、万人に納得される「科学的な解答」は多分ないでしょう。しかしそれでもあえて答えを絞り出すならば、
 
“「経験」に基づき、「再現性」があり、「反証可能性」を備えていること”
“物理的、生物的、化学的、数学的(一部)など、様々な観点や分野、水準がある”
 
「科学的だ」と見做すためには、これらの要素のうちのいくつかが必要条件ではないでしょうか。
(言うまでもなく、自分が「科学的」な「正解」を提示できているとも思っておりません。)
 
そして、「科学では、あくまでも事実を『近似的』に捉えている」或いは「こう考えると(これまでの経験知と)矛盾がない」という暫定的な性質を有することも忘れてはならない特質でしょう。
知見の進化に伴い、常に更新される宿命を持つ「科学的見解」は、その瞬間には最も合理的な根拠でさえ、後日覆ることが多々あります。そのため、重要な事柄については、常に「健全な」疑いを持ち続け、知見を更新することが、「独善」や「誤謬」を犯さないためには大切でしょう。
自戒を込めて、何かの主張をするために、都合の良い「科学的根拠」を持ち出して人に強要することは慎みたいと考えます。
  
 
◆ 「科学的思考」と「CO2温暖化説」
「CO2がその温室効果により、地球温暖化を加速する原因である。ゆえに『カーボンニュートラル』、『脱炭素』は地球環境を守る正義である。」
このような思考が現代の世界的潮流です。しかし温室効果や「脱炭素」の効果に対する「科学的」見解や主張には、大きな幅があります。常に暫定的であり更新され続ける「科学的」知見の特性を考慮するならば、地球環境変化の原因に関する諸仮説は、今後も揺れ動くでしょう。
酸性雨」、「ダイオキシン」等、過去に科学的根拠を持って憂慮されていた環境破壊は、環境調査や技術開発に伴い杞憂になりつつあります。現在「CO2」にかけられた嫌疑が今後も妥当とされ続けるのか、それともいつか何かにとって代わられるのか、私には予想できません。
単なる他者非難ではなく、懐疑的・クリティカル(批判的)に「脱炭素」の行方を検証し続けたいと考えます。
 
 
(おわり)
 
 
【文責:田村和広】
 
 

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