【日本におけるウイグル問題】
THE SANKEI NEWSの報道によると、
同協会のレテプ・アフメット副会長は、海外のシンクタンクのリポートや報道を紹介しつつ、ウイグル人に対する強制労働と著名企業のサプライチェーンとの関わりや、同自治区での女性に対する不妊手術の強制、子供らに対する同化教育の実態を説明した。
アフメット氏は同自治区での弾圧を米政府、カナダ下院、オランダ下院が「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定し、中国を非難したことに触れ、「あと半年すればジェノサイドと認定する国が間違いなく増える。そうした中で日本だけが何もしないのは、私たちが見たくない光景であり、多くの日本人の国民が見たくない光景だと思う」と述べ、出席した議員らに具体的な行動を求めた。(3月2日THESANKEI NEWSより引用)”
「何もしない日本、見たくない」 ウイグル協会幹部が行動求める - 産経ニュース (sankei.com)
◆ 事実確認が必要
記事では、日本ウイグル協会のレテプ・アフメット副会長の言葉を引用し
“米政府、カナダ下院、オランダ下院が「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定”したと伝えております。
しかし、米国政府等が「ジェノサイド」と認定したことのみを以て、日本も「中国がウイグルの民族を弾圧している」と認識するのは早計と考えます。まずは実態の把握が前提ではないでしょうか。
2003年に米国がイラク戦争を始めた際、日本はいち早く当該戦争を支持しました。開戦理由は「イラクが大量破壊兵器を保有しており(=世界の脅威)これを排除する」というものでしたが、戦争終結後その証拠はありませんでした。
このように「事実確認」ができないまま、国際関係が戦争にまで発展することは、結局当事国の国民に悲惨な災禍をもたらすことになるからです。
まずは「ジェノサイド」(genocide)という言葉の定義を国際的に揃えることが大切です。「文化的ジェノサイド」などでも使われますが、現在はこの言葉を使う人や国により、指し示す意味に大きな幅があります。この問題を論ずる上では意味を揃えることは大切でしょう。
その上で、定義に該当する行為が行われているのかどうか、行われている場合には、「その主体は誰で、被害を受けているのは誰なのか、そしていつから始まり、どれくらいの規模なのか」という事実確認をすることが必要でしょう。
◆ 事実の周知
“政府はジェノサイド条約の未批准を理由にジェノサイドの判断を避けるが、同じ定義を採用している「国際刑事裁判所に関するローマ規程」を日本は批准している。今ウイグルで行われていることは「当該集団内部の出生を妨げることを意図する措置」ではないのか。逃げてはダメだ。(ツイッターより)”
と表明しております。
また、月刊正論(4月号)でも
“ジェノサイド黙認は許されない(平野聡氏)”
“ウイグル人弾圧で対応鈍い日本(アフメット・レテプ氏)”
など、この問題に焦点を当てた報道がなされております。なんらかの弾圧が行われている可能性は高いと考えますが、一個人としては確認のしようがありません。
特に中国関連の事象については事実確認がしにくいのですが、仮に上述のような事実を確認できたならば、次はそれを国民に正確に周知することが課題となります。
国際的な人権問題に疎い日本人は(私も含めて)多く、日本において現時点で関心は高まっていないように感じます。特に経済を“人質”にとられている利害関係者は、中国の非難に繋がるこの問題を正視することを躊躇している印象があります。(ともに個人的印象)
日本の世論がおかしな方向に進まないためには、正確な事実を国民に周知することも大切でしょう。
◆ 「暴志膺懲vs.日貨排斥」的な対立はリスク
日本社会の世論は、事実確認が曖昧なうえに、科学合理性だけでなく「情緒」も大きな影響を与えるファクターとなります。また、ひとたび一定の方向に動き始めると、なんとなく大きな勢いを持つことがあります。
これは国民一般だけでなく、政策決定に携わる層にも共通した特徴と考えております。(個人的仮説)それが大惨事に繋がった具体的事例としては、日独伊三国同盟を推進した大島浩(駐独武官のち大使)がドイツの武力のみに目を奪われ、参謀本部や日本政府に「ドイツ勝利」を「前提」として偏った情報提供と情勢判断を送り政府の開戦決定に大きな影響を与えたことがあげられます。
しかしこの特徴は、歴史を振り返り、あるいは現在の国際情勢を俯瞰すると、程度の差はあれ諸国に共通するいわば「人間の特徴」とも言えるのではないかとも考えております。
本来、国際関係は「善悪の二元論」に持ち込むことは不可能な複雑な事象ですが、単純な構図を求める国民が増えると、単純化された「善悪の虚構的ストーリー」が流布され、大きな紛争に発展する危険性が増加します。一部メディアがその拡声器になっている構造に変化はなく、SNSの発展に伴いその勢いは増々強くなっているのではないでしょうか。
およそ100年前にも「暴志膺懲vs.日貨排斥」という感情的な対立が激化しておりました。その対立激化から悲惨な戦争まではあっという間でした。因果関係の断定や貢献度合いの算定は困難ですが、このような感情的対立が大惨事を招いた一因である可能性は否定できないでしょう。
激しい感情的対立を抑止するために必要なことは多いのですが、まずは落ち着いて事実確認をすることが大前提だと考えます。相対的な比較をすると、接待問題よりもこちらの問題の方がリスクは巨大なので、国会では是非ともこちらの議論に力を入れて頂きたいと考えます。その観点から、国民民主党の玉木雄一郎代表や山尾志桜里議員の動向に注目しております。
(おわり)
【文責:田村和広】
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