【安倍政権下の改憲阻止＝目的は完全に達成された】 ～欺瞞を見抜くためには国民教育が必要～
憲法改正は、安倍政権が目指した重要課題の一つでした。その安倍政権が憲政史上最長政権になったという事実は、交代可能な野党不在という環境のみならず、その経済政策に加え憲法改正に期待していた国民が少なからず存在することの傍証だと考えております。一方、何らかの理由で日本国憲法、とりわけ第9条の改正を阻止したい勢力も依然として有力です。政権を蛇蝎の如く嫌悪する人々の活動が目立ったのも安倍政権の特徴でした。
しかし、安倍政権による憲法改正はついに未達成に終わりました。安倍総理ほど憲法改正に対する強い意欲を持ち、メディアを恐れず政策を推進する政権は、なかなか出現しにくいと予想されるので、憲法改正の実現可能性はかなり低くなりました。
ちなみに安倍政権による改憲が未達成となること自体は、昨年11月の時点で既に予見された結末でした。とはいえこのような唐突な幕切れは全く予想外でした。 (アゴラにご掲載頂いた拙記事「改憲は万事休す！せめて安倍総理は次世代への希望を遺せ（2019年11月23日）」ご参照 ※1)。
集団的自衛権に関する実質的な制約を打破するという、安全保障上の構造転換を成し遂げたことが、逆に憲法改正の緊急性を低下させてしまったことは皮肉なことでした。
ところで安倍総理は柔和な物腰とは裏腹に、若い頃からメディアとの対立を回避しない硬派な議員でした。その姿勢の功績としては拉致問題の突破口を開いたこと等があげられるでしょう。しかし複数メディアとの様々な軋轢が、メディアによる過度の「権力の監視」を招いたことも確かでしょう。特に朝日新聞の妄執は酷いものでした。
勢力減衰中と雖も未だメディアの影響力は強大で侮れません。メディアの継続的なネガティブキャンペーンは、倒閣こそ成し遂げられませんでしたが、安倍政権による数々の改革を停滞させるには十分な影響を及ぼしました。
◆ 「燻製ニシンの虚偽」
「燻製ニシンの虚偽（red herring）」とは、論点をすり替えて議論を破壊する技法のことを指します。語源と定義には諸説ありますが、猟犬の訓練からの比喩表現とされます。「強烈な臭気を放つ燻製ニシンで追跡する猟犬の気を逸らし、主目的である獲物の追求を困難にすること」から転じて「主要な議題から論点をすり替えることで関心を逸らし、肝心の議論を停滞させる」詭弁の技術です。
マスメディアと野党はこの「燻製ニシン」を議会と国民の目の前に投げ込み続けました。モリカケ問題、毎日新聞の虚報に基づく戦略特区の論難、そして「桜を見る会」に対する難癖から「シュレッダーを見る会」へ続くシームレスな空騒ぎは、公論に決すべき憲法改正に関して、そもそも議題に上がる事自体を先送りし続けました。時間を稼ぎ続けた結果、護憲派にとっては最大の脅威であった安倍政権が、総理の体調異変で間もなく消滅することが確定しました。
そもそも無理筋であった個々の戦いで、メディアと野党は当然ながら負けが続きました。彼らにとっては、目標を何一つ達成できず、強引でうんざりする争いの過程で、自らの支持率低下を止められないじり貧の戦いでした。その戦略は表面的には、光の見えない持久戦の中でいたずらに支持率を「消費」する愚策に見えました。しかし、遂に時間切れに持ち込み、「憲法第9条を1文字も変えさせない」という最大目標は完全に達成されました。
◆ 停滞の打破は国民教育から
燻製ニシンの連続投入は見え透いた欺瞞ですが、近視眼的に反応する相手に対しては依然として有効な作戦です。現代の日本国民の多くは、目を逸らされ続けているという自覚さえないでしょう。
メディアの扇動に起因する各種の停滞をうち破るためには、議論の技術や典型的な詭弁に関する、国民全体の知の水準を高める必要があります。歴史教科書や入試改革も大切なテーマではありますが見方によってはこれらさえ燻製ニシンの可能性があります。論理的思考技術や言論技術こそ、21世紀の日本における国民教育の課題ではないでしょうか。
（おわり）
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※1 「改憲は万事休す！せめて安倍総理は次世代への希望を遺せ」2019年11月23日：
http://agora-web.jp/archives/2042808.html
【文責：田村和広】
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