情報検証研究所のブログ

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【「虚構で虚像を粉飾」するニューヨークタイムズ】 ~物語がいつしか「真実」に仕立てられて行く~

クーリエジャポンに掲載されたこの記事には、実態のない虚構が「空中に刻んだ幻の階段」を上って行き、いつしか「真実」となって行くからくりを見る思いです。
 

news.yahoo.co.jp

 

添付した記事でMotoko Rich氏が紡ぐストーリーでは、その出発点(:前提事実)として、次のことが描かれていますが事実でしょうか。記事より引用し、事実かどうかに疑問を感じる部分を太字として以下列挙します。
 
  • 森会長を辞任に追い込んだ大学生
  • オリンピック組織委員会会長による「女性がたくさんいる会議は長引く」という性差別発言に対し、この3人の女性が声を上げたのだ。
  • 彼女たちが始めたオンラインでの署名活動は、SNSで急速に広まり、オリンピック組織委員会会長だった森喜朗(83)の辞任へとつながった。
  • 森が他の80代男性を後継者に指名することも阻止してみせた。
  • 今回の署名活動は、そんな日本社会に息苦しさを感じる若者たちの声が、森氏退任へとつながったと言える。
  • 「若者たちにとって、今回の件は背中を押してくれる出来事だったのではないでしょうか。私たちは、日本社会の不健全な状況を改善したいと思っています」と、能條桃子は語る。彼女は慶應義塾大学で経済学を専攻する22歳。15万人分もの署名を集めた運動の発起人3人のうちの1人でもある。
  • 15万人もの声が集まったことで、私たちが社会を変える運動を続けていくうえで、力強い後押しをいただけました」
  • 謝罪会見のなかで森は、人々の障害物や重荷となる老人を指す「老害」という言葉に言及した。つまり、国民が自身をどう思っているのか、森自身も自覚していたということだ。
 
◆ 因果関係不明の事柄を断定
記事では「オンライン署名」が「森会長辞任」につながったという因果関係をイメージさせる書き方です。しかしそれは、事実とは断定できません。むしろ実際に辞任の決定につながったのはスポンサーの声明やIOCのスタンスの激化だった印象がありますが、もちろんそれも断定できません。
つまり、因果関係の特定が不明な状態ですが流れの一端をになった事象を殊更に原因と感じさせる記述ぶりは不誠実です。
 
◆ 「日本社会が不健全」?という見解
一学生の見解を引用しておりますが、ある社会が「健全か不健全か」とはどういう区別の付け方なのかよくわかりません。
  
 
◆ 「15万人」は本当か?
否定するデータもありませんが、署名人数「15万人」はよく吟味した方がいいと感じます。
  
 
◆ 言及したならば「自覚していた」ことになる?
”森は、人々の障害物や重荷となる老人を指す「老害」という言葉に言及した。つまり、国民が自身をどう思っているのか、森自身も自覚していた
「つまり」には本当に注意が必要です。つまり、「等価ではない言い換え」や「過度の一般化」に強引に引っ張る文章も多く、論理的ではない内容を形式的に論理的に見せかけてミスリードして行こうとする場合があるからです。(この一文の文頭には敢えて使いました。)
  
 
◆ 検証サイトもあるMotoko Rich氏
Motoko Rich氏は、ある特徴から注目されている記者(東京支局長)です。彼女には、その言動に注目した検証サイトも存在します。ただし、その内容について、私は特に肯定も否定もしません。ニューヨークタイムズの方針や伝統なのか、リッチ氏の信条なのか不明ですので、今回は記者個人を論じることはいたしません。

https://www.jijitsu.net/entry/motoko-rich-NYT-netsuzou

 
◆ 虚構で虚空に階段を刻む空中楼閣の建設
確かに紛らわしい言い方で、そう受け止められても仕方がない発言をした森元会長ですが、事実としては「性差別の意図のある発言」ではありませんでした。
しかし
「性差別発言」をしたという虚構で、
「辞任に追い込んだ若者」という虚像を祭り上げ、
「若い声が『老害』に支配される不健全な日本を変えて行く」という装飾(≒粉飾)を行い、
社会をミスリードして行くニューヨークタイムズクーリエジャポンですが、少なくともこの記事は個人的には社会の害悪だと感じます。注目されたこの若い人たちが勘違いして質の悪い活動家になってしまうことを懸念致します。(当人たちにとって、それは不幸の第一歩でしょう。)
もちろん、報道の自由言論の自由の観点から、当該記事も何ら制限されるべきものではないでしょう。しかし言論により実態のない「空中楼閣(虚構)」を建設しても、いつかは現実との激突により墜落します。その虚構の乖離が激しいほど、墜落時の破壊力を高める位置エネルギーが大きく蓄積されて行くでしょう。
悪いことは言いませんから、ニューヨークタイムズは協力関係にある朝日新聞に、「慰安婦関連報道や吉田調書誤報事件」のダメージも共有してもらった方がいいと個人的には思います。
 
(おわり)
 
【文責:田村和広】
 
 

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