情報検証研究所のブログ

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【朝日新聞の「反原発運動」は自由だが、社会の迷惑だ】      ~科学合理的で理性的な議論の邪魔~

朝日新聞によるエネルギー問題、とりわけ原発問題に関する記事には心を揺さぶられます。内容ではなくその偏向振りに。
特筆するまでもなく朝日新聞の記事には「報道」を装った「偏角付き」文章が多いのですが、原発に関しては許容し難い反社会運動にさえ感じます。「プロメテウスの罠」というインテリゲンチャを自認する人々の心をくすぐる表題で「調査報道」記事を連載していましたが、これは原発問題について最大で180度の角度を付けた「反原発運動」にしか見えませんでした。しかし吉田調書についての決定的な誤報で逃げ切れずに木村伊量社長(当時)が辞任に追い込まれたのは「人を呪わば穴二つ」を地で行く現代の寓話でした。
 
その朝日新聞が12月21日、次のような政府の再生可能エネルギーに関する方針についての報道をしております。
“再生エネ5~6割、原発にも含み 2050年電源構成案
経済産業省は21日、2050年の総発電量に占める各電源の割合(電源構成)について、再生可能エネルギーを5~6割、水素とアンモニア発電を合わせて1割とする案を、参考値として有識者会議で示した。残る3~4割は原発二酸化炭素(CO2)を回収・貯留・再利用する火力発電でまかなう。菅義偉首相が掲げる「50年までに温室効果ガス排出の実質ゼロ」の実現に向け、25日にも発表される政府のグリーン成長戦略の実行計画に盛り込む方向だ。(朝日新聞21日記事より一部引用)”

www.asahi.com

 

しかしこの記事には、「反原発」の思想が見え隠れする文脈を構成しております。具体的には下記3点が象徴的です。
原発の新増設・建て替え(リプレース)につながる可能性があり、論議を呼びそうだ。
有識者会議は原発容認派が多く、「カーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)の実現には火力と原子力をきちんと活用していくことが重要」「新増設の準備を始めるべきだ」といった声が相次いだ。一方で、「信頼回復がどこまでできているのか」「原発が本当に経済効率的なのか疑問」との指摘もあった。
“また、実行計画では原子力が15程度の重要分野の一つに位置づけられることもわかった。”
(以上は全て、当該記事より引用。太字は筆者)
 
これらの記述には、次のような一定の意図を感じます。
 
 
◆ 意見に事実を装わせる修辞法
 
論議を呼びそうだ」
これは、「攻撃目標はここですよ」と非難の声を上げることを指令しているように見えます。
 
原発容認派が多く」
容認派vs.反対派に二分して対立を煽り、不毛な中傷合戦に堕として行こうとしているように見えます。
 
「一方で、…との指摘もあった。」
この書き方は、確かに事実を書いている中に意見を反映することが可能です。秘かに順番と動詞に評価を反映することができるからです。具体的にどういうことかというと、
“「原発が重要」という声が相次いだ一方で「原発は疑問」との指摘もあった。”
という書き方と
“「原発は疑問」という声があった一方、「原発が重要」という見解の表明も多かった。”
という書き方では事象を記述する順番の違いで、同じ内容を記述していても伝わってくる印象は真逆です。また、「声が相次ぐ」という曖昧語には「感情的な行為」をしている印象が潜み、「指摘もあった」という言葉には「理性的な行為」の印象があります。このニュアンスの違う言葉の組み合わせで、「原発に慎重な見解」を持つ人々に「原発推進派に押し切られてしまう」という焦りの気持ちを誘発しかねません。
 
一般に考えられているほど、「事実」と「意見」の切り分けは簡単ではありません。
 
◆ 政府はもっと積極的な広報を
朝日新聞は赤字転落のリスクを負ってでも自社の方針を貫くということですので、言論活動は大いに展開したらいいと思います。ただし日本としては、それによって「汚染」が広まる前にそれを中和する見解を全力で普及させた方がいいのではないかと考えます。
つまり、例えば朝日新聞が「処理水」を「汚染水」と呼称し続けるならば、その何倍もの解説を他媒体でPRするなど、ホワイトプロパガンダ(出所が明らかな宣伝)に努めるべきでしょう。
トリチウム」も自然界に普通に存在し各国が放出している物質(三重水素)ですが、一般的にはよくわからず例えば「ストロンチウム」と似た響きにはなんとなく不安を覚えます。これも原発事故を経験した我が国では広く深く繰り返し周知徹底すべき「テクニカルターム」でしょう。
 
今後、画期的な効率を実現する各種の技術革新がない限り、発電構成に占める原発の割合は高まらざるを得ないのではないかと考えておりますが、その際は反対運動も激化することが予想されます。エネルギー政策の方向性に関する是非はこれからの議論次第ですが、これは極論ですが「高速道路を通す際に住民を移動」させたり、空港開設に際して「反対派の活動を終了」させたりしたように、公共の利益のために必要ならば、法に則り国家としての指導力を発揮しなくてはならない時期ではないでしょうか。そしてそのベースとして必要になるのは国民の適切・妥当な理解です。
(状況の切迫度等についての認識は人それぞれなので、様々な観点で異論も多いと想像します。)
 
◆ まとめ
朝日新聞が「原発反対」という論陣を張ること自体は、議論にとって極めて有意義であり、ぜひ展開して頂きたいと思います。ただし、科学的ではない、或いは異なる目的の「ためにする議論」であればただの迷惑活動に過ぎません。
逆に、現在の技術水準でさえ、科学的に判明していることはごくわずかであり、「科学万能」という姿勢もまた合理的ではありません。
日本においては今後、現在利用可能な科学的根拠に基づく、合理的な議論が展開されることを祈ります。
 
 
(おわり)
  
(主な参照サイト)
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2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

2019—日本が抱えているエネルギー問題(後編)|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁

 

【文責:田村和広】

 


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