【考察:ファクターX説への懐疑】 ~手軽な安心を求めるヒューリスティクスでは?~
(※ 本稿は100%私見に過ぎませんが、論点を提示したいと思いました。検証と少しずれているのですが「ファクターX説の検証」という趣旨ですので、投稿をお許しください。「そんな見方もあるのかな」くらいの懐疑的なスタンスでお願い致します。)
実は私は、コロナウイルスに対する“ファクターX仮説”を疑っております。
せめて、二変数の“ファクターf(x,y)”や、三変数の“ファクターf(x,y,z)” ならばまだわかるのです。各種の動向に関して、わずか一要素でクリアに原因の説明を付けるには、この感染症は余りに複雑な現象です。“律速段階”というような要素とはちょっと違うと感じています。
◆ 感染症流行のファクター
感染症の流行には、少なくとも次の3要素は大きな影響を与えると考えます。
1:病気を引き起こす病原体(菌またはウイルス)の性質
2:社会全体の健康状態や衛生状況
3:集団における社会体制や制度
もちろん他にもあると考えております。例えば「社会的な受け止め方」や「生死観という民族の文化」などです。ある国では、高齢者に人工呼吸器や人工心肺を接続するのは「虐待」と捉える文化さえあると聞きます。私は、肉体的な感受性だけでなく精神的な感受性も大きな要素の一つではないかと疑っております。
◆ 無視できないマスメディア
とりわけ日本においては、マスメディアの行動も影響が大きいのではないかと考えております。ひとつひとつの番組や新聞のやや愚かな扇動も、社会的な警戒心を醸成する上で、一定の貢献はあったとも感じます。(尤も、副反応も無視できない状況ではありました。)
◆ 各要素の貢献度は計測が困難
そして、今回の感染症のパンデミックは、どの要素がどの程度の貢献度合いなのか、判定が非常に難しい現象なのだとも考えております。
例えば、もっと知見が豊富なインフルエンザについてでさえよくわからないことがあります。「今シーズン、日本でインフルエンザが抑制されたのはコロナ対策で手洗い等が徹底されたから」という見方があると思いますが、「暖冬」だったという要素も見逃せません。どの程度貢献していたのかもよくわかりませんし、全く影響がなかったとも言い切れません。このように、新型コロナより解明が進んでいるインフルエンザでも、現実には複雑な要素が絡み合うので、注意深い検証が必要です。
まして未解明な部分も大きいSARS-CoV-2(新型コロナ)では、一層慎重な検証が必要でしょう。表面的な理解で短絡的な解を出し、それに基づいて政策決定することは禁物と考えます。
例えばブラジルでは大統領が、“ちょとした風邪”というスタンスで臨みました。しかし死亡者の増加という事実の前では、それは失政に感じます。(ただし、因果関係は不明であり、長期的に見て成功か失敗かは現時点では判断できません。)
◆ ある企業の財務データ
例えば、次のデータは、現実にある企業の営業概況(連結)です。
2020年3月期
売上高3,536億円、純利益107億円、
総資産5,991億円、純資産合計3,754億円、
現金(及び同等物)616億円。
この企業は、一見すると優良企業グループです。いったいどんな事業の会社グループでしょうか?
◆ 正解は朝日新聞
これは、株式会社朝日新聞社の第167期(2020年3月期)グループ決算(※)です。
如何でしょうか。例えば定年退職年齢を改訂して退職引当金をいじったり、早期退職制度で一時的に人件費を圧縮したりして多額の純利益を稼いでいても、現状の経営方針のもとでは成長企業とは思えません。最終要約数値だけでは、一企業グループでさえその理解は限定的です。
◆ 表面的な理解では本質の把握は難しい
同様に、最終的な数値が揃っていても、その実態や推移を注意深く理解しないと事実の把握には程遠いと考えております。
発表されたCOVID-19の「感染者数」と「死亡者数」は、決算短信で言えば「表紙に要約された一部データ」です。しかも各国で不揃いです。このサマリーデータを基にシンプルな“ファクターX”を探しても、正解にたどり着くのは少し厳しいのではないかと考えております。
◆ ヒューリスティクスとは
厳密には正確な分類定義にあたりたいですが、簡単にいうと「何かの問題の解決策を、ざっくりとした、大雑把な経験や先入観に基づく類推で考えること」というのが「ヒューリスティクス」です。一言でいうと「類推」です。その際、試行錯誤であたりを付けたり、近道をしたりしますので、MECE(ミーシー、漏れなくダブりなく)とはちょっとスタンスが違います。
ヒューリスティクスとは必ずしも精密な検討ではないのですが、思考作業と時間を節約して「結局大体こういうこと」という理解が得られるので無意識のうちに誰でも使っている手法です。
◆ 欲しいのは理解できたという安心感
結局“ファクターx”を求める心理には、この手軽で明快な「解」を得て不安から解放されたい、という欲求があるのではないかと感じます。(:ヒューリスティクスに基づく個人的仮説に過ぎません。間違っているかも知れません。)
事実に基づくメカニズムの解明を心より期待しております。
(おわり)
(参考サイト)
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※ 「朝日新聞 有価証券報告書」(edinetより)
【文責:田村和広】
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