情報検証研究所のブログ

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【検証:欧米諸国の死亡率からみた日本の上限】 ~主要な欧米諸国の死亡率は二極化~

8月3日現在、日本ではテレビを中心に新規「感染者」数への注目が高まっております。しかし緊急事態宣言が再度発出されるようには見えません。
確かに「クラスターを的確に捉えて検査を増やしているのだから、感染者数も増加するのは当然だ」という見解にも一定の理はあるように感じます。一方、重症者は一進一退ながらも前回緊急事態宣言がなされた4月7日と同水準になっており、陽性確認者に占める高齢者の割合も、徐々に高まっていることも事実です。テレビの扇情的な番組は論外ですが、医療機関にまだ余裕があるとはいえ、拡大時には急激に増加することも解っておりますので注意は必要です。専門家も現状を「漸増」と表現し、一層の対応を訴えております。
 
日本の現状はどのように見るべきなのでしょうか?
 
また、「今後日本においてCOVID-19の流行が拡大する」と仮定した場合、現実的にはどれくらいまで広がると覚悟しておいた方がいいのでしょうか。
 
今回は、感染拡大と終息、さらに再拡大という具合に、日本よりも先行している欧米諸国の状況を整理して、上限の目安を調べてみたいと思います。

 

 
◆ 欧州と米国の死亡者数累計(実数)


グラフ1は、3月1日から7月31日までの主な欧州各国と米国の死亡者数累計の推移を表しております。赤い折れ線の米国は圧倒的に多く、しかも現在も早いペースで増加中であることが伺えます。一方欧州各国は微増のロシアを除いては殆ど沈静化しているように見えます。しかし、国民の人口規模なども大きく違うため、相対的な水準の違いにどんな意味があるのかは読み取れません。
そこで、次に死亡率(死亡者数÷人口)で同様に推移をしらべました。
※ データは厚生労働省の報道発表資料から筆者が集計した。なお、たとえば英国等明らかに各国政府側の集計上の混乱を原因とする異常値や修正値も多く、一部の異常値は0として扱った。

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◆ 欧州と米国の死亡率
 
グラフ2は、各国の死亡率(:死亡者÷総人口)のグラフです(人口数値は、国連データを活用)。死亡率で比較すると、グラフ1では米国は「青天井で上昇中」に見えました。しかしグラフ2を見ると、実は欧州諸国と同水準であることがわかります。
しかし米国は、3・4月頃にはドイツと共に医療崩壊を起こさないで踏みとどまっていましたが、なぜか現在では医療崩壊を起こした国々と同水準のグループに移動してしましました。

 

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よく見るとこれらの国々は高水準群と低水準群に二極分化しているように見えます。注目すべきは、経済の状況や医療体制の違いなどの諸事情を超越して、高水準群では0.055%±0.015%に固まっており、低水準の2ヵ国は0.01%付近にいることです。これほど固まるのは偶然でしょうか。何等かの要因はありそうですが、それが何かは現時点ではわかりません。
また、途中で方針を変更し厳格なロックダウンを行った英国の方が、独自の路線でロックダウンをしなかったスウェーデンよりも高い死亡率となっており、やはりロックダウンはタイミングが大切なのではないかと感じます。もちろん確定的な結論は科学的な分析を待ちたいと思います。
なお、米国とロシアは現在も急速に増加中なのであくまでも暫定的な位置であり、今後の推移で評価が変わる可能性は大いにあります。また、欧州で最も死亡率が高いのは、ベルギーで0.085%に達しております。

 


◆ 各国 新規死亡者数で見る感染拡大と終息
 
言うまでもなく筆者には判定する権限も識見もないので、以下は、素人が受ける印象の陳述に過ぎません。
新規死亡者数の推移を眺めると、主な欧州諸国は一旦終息し、アメリカは終息する間もなく再反騰、ロシアは穏やかに終息に向かう傾向が見られます。
米国(グラフ3)・・・終息せず再上昇
ロシア(グラフ4)・・・終息の兆し
英国(グラフ5)・・・終息に向かうが未だ日々二桁の死亡者数
イタリア(グラフ6)・・・第一波終息
スウェーデン(グラフ7)・・・第一波終息
ドイツ(グラフ8)・・・第一波終息
仏(グラフ9)・・・第一波終息
スペイン(グラフ10)・・・第一波終息
 

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◆ (参考)スペインの新規感染者数推移
 
スペインは、死亡者数で見ると、一旦終息したように感じますが、7月に入って新規感染者数は再拡大の兆しを見せております(グラフ11)。これが、日本のように検査方針などの変化によるものなのか、真の感染者が増加していることを象徴しているものなのか、数値の推移だけでは全く判断できません。今後の推移に注目です。
 

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◆ 政府の言動も混乱を誘発
 
現在、日本政府の施策からは不統一な印象が拭えません。運営の実態が曖昧なので、それを周知する広報活動も日を追って悪化しているように感じます。COVID-19対応に関しては、本来言葉を正すべき側である大臣(西村経済再生担当大臣や加藤厚生労働大臣)側が自ら不正確な言葉の使い方をしており、控えめに言って不安と混乱を増幅する根源となっております。政策判断の責任を専門家に負わせるような言動なども残念でした。

 


◆ 煽る野党とそれに呼応する一部の有識者
 
例えば、7/16参議院予算委員会(閉会中審査)において、一部野党の思惑を受け継いで、分野の違う専門家が以下のようなプレゼンテーションを展開しておりました。
●「極めて深刻な事態を迎えつつある、“東京のエピセンター化”という問題」
●「ゲノム配列の報告を見ますと“東京型・埼玉型”に」
●「ミラノ・ニューヨークの二の舞になるということを懸念」
●「エピセンター化してしまったら劇場も電車も危険になってしまう!
その様子はNHKで中継され、その後もテレビ番組で度々放送されておりました。その後、日本では新規陽性確認者数が1,000人を超えるなど、一見「その恐怖を煽る主張を裏打ちする」かのような状況が続きます。上述のようにイタリアや米国の状況を冷静に比較した場合、このような算定根拠の明示されない、恐怖を煽る比喩表現は、不適切ではないかと考えます。
現実的には、2月から4月頃の欧州諸国とは違い、現在の日本では「三密の回避」や「マスク・手洗い」といった効果的な感染予防策への知見があり、完全ではありませんが対症療法も徐々に確立され始めております。そのため、高水準群(アメリカ、スペイン他)と同様に感染が広がると考えることはあまり現実的ではないように感じます。
 

 

◆ 現実的な拡大規模はどの程度か
 
仮に感染の再拡大があったとしても、充実した医療アクセスなど社会性を考慮すればドイツ等低水準国の死亡率0.01%程度が想定可能な上限ではないでしょうか。その場合、計算上の最大値は12,600人となり、確率まで加味して計算すれば、死亡者数の期待値は、E(x)=4,000人±1,000人あたりに落ち着くのではないでしょうか(個人的印象に過ぎません。また、ここで想定していない条件の変化があった場合には、この限りではありません。)
その場合、日本におけるCOVID-19のリスクは、季節性インフルエンザと同水準かやや高いレベルと言えそうです。あくまでもリスク計算の比較であり、「だから大した病ではない」という主張ではありません。逆に、相対的に見て油断禁物の重い感染症だと認識しております。

 

 
◆ 未知の恐怖とリスク認知の歪みについて
 
「未知の感染症」なので恐怖感が増大し、「発生確率」や「被害の大きさ」を直感的に過大に見積もる現象は、リスク計算値を実際よりも大きくしてしまう認知の歪みです。この新型(未知)への恐怖を原因とする認知の歪みを利用して、現在のように恐怖を煽る(野党や利害関係者やテレビの)やり方は姑息だと考えます。十分痛ましい感染症の被害ではありますが、日本経済を叩き潰すほど混乱させる必要はないと考えます。

 


◆ 解せない政府の傍観ぶり
 
しかし、次の報道にもあるように、政府は「現状は緊急事態宣言を出すほどではない」という認識を示しますが、政府側もその根拠を解りやすく説明することは殆どありません。
“菅官房長官は1日、読売テレビの番組で新型コロナウイルスの感染者増を踏まえ、緊急事態宣言を再発令する可能性について、「現時点ではそうした段階ではない」と述べ、慎重な立場を示した。(読売新聞オンライン2020/08/01より)”

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200801-OYT1T50168/


詳細に関心がある国民には分科会の発表(と資料)を広く告知し、そうでない国民には政府広報で現状を周知することなどが望まれます。政府としては、表層的な理解に基づく集団的“恐怖感の空気”が醸成されることを回避すべきではないでしょうか。それが日本を自縄自縛状態に追い込むリスクだからです。

 


◆ 政府は広報活動の改善を
 
改めて、現状の情報開示の仕組みを改善し、三密回避など感染防止の正攻法を告知し続けるなど、基本に立ち返った広報を希望致します。
まず、厚労省は公式データをCSVファイルなどでも配信して国民のデータ分析に対するハードルを下げて頂きたいと思います。今の情報配信形式では、今回の新規死亡者数の数値などは、元データの入力に多大な労力がかかってしまい、マニアかITリテラシーの高い人しかやらないと思います。(筆者はITリテラシーが低いです。余談ですが、東京都もおかしいです。重すぎます。)
扇情的に国民を誤導するテレビなどに負けずに、国民をリードして頂きたいと思います。
 
(おわり)
 
(参照したサイトは以下の通り)
========
死亡者数推計:

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei19/dl/2019suikei.pdf#search='%E6%97%A5%E6%9C%AC+%E5%B9%B4%E9%96%93+%E6%AD%BB%E8%80%85'


厚生労働省、報道発表資料

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12763.html


読売新聞記事:

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200801-OYT1T50168/

 

【文責:田村和広】

 

 


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