情報検証研究所のブログ

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【検証:海洋放出に対する世論の変化】 ~「世論調査」はやり方次第で「世論操作」に~

福島原発の事故処理に伴う「トリチウムを含んだ水(処理水)」の海洋放出については、国内外で宣伝戦が繰り広げられております。これは実際に放出が開始される2年後まで、まだまだ紆余曲折がありそうです。妙な「風」や「空気」に流されないよう、今後も継続的に注視して行くことは大切でしょう。
そのためにはまず、状況変化の原点を確定しておくことは必須の基礎的作業です。そのための一つの視点・材料として、現時点における世論の状況について整理しておこうと考えました。
そこで今回は、下記のような2つの海洋放出に関する世論調査について検証しました。
 
1. テレビ朝日世論調査における決定前後の変化
2. 朝日新聞世論調査における推移
  
 
1.テレビ朝日世論調査における決定前後の変化
(グラフ1ご参照)

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テレビ朝日による全国を対象とした調査(※ 概要)では、海洋放出について「必要だ」と思う割合が、昨年11月時点の43%から今年4月の62%に、19ポイント増加しました。逆に海洋放出は「必要ない」(本稿・グラフではスペースの関係上「不要」と表記)と思う割合が、昨年11月時点の35%から今年4月の21%に、14ポイント減少しました。また、「わからない」あるいは無回答の割合は22%から17%に5ポイント減少しました。
 
※ 2つの調査概要について
[ 2020年11月調査 ]
調査日: 2020年11月14・15日(土・日曜日)
調査方法:電話調査( RDD 方式)
調査対象:全国 18 歳以上の男女 1,881人(有効回答率:55.5%)
質問文言:「福島第一原子力発電所の事故処理についてお伺いします。事故処理によって、大部分の放射性物質を取り除いた処理水が、タンクに貯め続けられています。菅内閣は、この処理水を、水産物の買い控えを恐れている漁業関係者に理解を求めて、薄めて海に流す計画を進めています。あなたは、この計画は事故処理を進めていくうえで、必要だと思いますか、思いませんか?」
 
[ 2021年4月調査 ]
調査日: 2021年4月17・18日(土・日曜日)
調査方法: 電話調査( RDD 方式)
調査対象:全国 18 歳以上の男女 1,869 人(有効回答率:55.6%)
質問文言:「福島第一原子力発電所の事故処理についてお伺いします。菅内閣は、放射性物質トリチウムを含む処理水を、再来年にも、国の基準を下回る濃度に薄めたうえで、海に放出する方針を決めました。あなたは、この決定は事故処理を進めていくうえで、必要だと思いますか、必要はないと思いますか?」
 
 
テレビ朝日の調査に不適切な要素は無い
調査対象に関する母数の数や偏りの排除努力、質問文言の設定については、概ね妥当であり、2件の調査について特に不適切な要素は見当たりませんでした。また、ここには記載しませんが、質問は多岐にわたる他のテーマと共になされており、悪意の誘導はないものと筆者は認めます。テレビ朝日なので「朝日新聞の邪な角度付け」が混入する可能性を予期していたのですが、予想とは違う印象の内容でした。
 
◆「海洋放出は必要」と考える層が多数派に
昨年11月時点では、「必要43%」に対して「不要35%」となり「必要」が8ポイントほど上回るとはいえ、拮抗しておりました。ところが4月13日の政府による正式決定を受けた後となる4月17・18日の調査では、「必要62%」に対して「不要21%」となり、「必要」が41ポイントも上回りました。「必要」が「不要」の3倍近くにまで増加し、均衡は完全に破れました。
背景などの推定は致しませんが、「世論調査≒世論」と考えるならば、「日本国民は海洋放出の決定を支持している」というのが自然な認識でしょう。
 
   
2.朝日新聞世論調査における推移
朝日新聞は、4月に入ってからはまだ世論調査をしていないようです(あるいは公表に至っていないだけかもしれません)。そのため、テレビ朝日と同趣旨の決定前後比較はできませんが、その代わり2018年以来、毎年2月に定点観測的に「海洋放出の是非」に関する質問をしておりますので、その推移を確認します。(グラフ2ご参照)

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朝日新聞世論調査は、福島県内の有権者を対象としております。これによれば、2018年以降のトレンドとして、年々賛成者は増加する一方、反対者は減少しております。
朝日新聞の仕掛けなのか、地域的特徴なのかは後に検証しますが、注目すべき変化が、2019年2月と2020年2月の間に起きております。賛成が19%から31%に12ポイント増加し、反対が65%から57%に8ポイント減少しております。これはその前後に比べて幅の大きな変化となっております。この間に何が起きたのでしょうか。
筆者としては、19年9月に「退任に際して原田環境大臣(当時)から飛び出した発言(※)が物議を醸したこと」が一番記憶に残っております。これをきっかけとして「科学的には妥当ではないか」という議論が再燃したことが影響したのではないでしょうか。
トリチウム水「海洋放出しか方法がないという印象だ」原田環境相 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン 

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/22654.html

 
なお、その後この議論については、菅官房長官(当時)が「個人的発言だ」として“鎮火”しております。
また報道によれば(※)、後任となる小泉進次郎氏は、環境大臣に就任した当日の11日に「福島の皆さんの気持ちをこれ以上傷つけないような議論の進め方をしないといけない」と述べたとされます。さらに小泉環境大臣は翌12日、全国漁業協同組合連合会の会長や福島県いわき市の漁業者らに会い、「原田氏の発言は個人的なもので海洋放出は国の方針ではない」と否定し、謝罪したといわれます。
小泉進次郎氏が炎上した「処理水問題」を科学的に解きほぐす (ironna.jp) 

https://ironna.jp/article/13733

主題とずれますが、小泉環境大臣の言動を長期的に観測するならば、「その発言の逆」が正解である可能性があり、その点では「朝日新聞の論調」と同じ傾向を感じます。
  
 
朝日新聞による誘導質問の可能性
朝日新聞世論調査からは、やや誘導的な意図が混入している印象を受けます。具体的に2021年2月の質問文言を見て行きましょう。
 
朝日新聞の質問文言)
“◆福島第一原発では、汚染水をタンクにため続けています。あなたは、タンクの水から大半の放射性物質を取り除いた処理水を、薄めて海に流すことに賛成ですか。反対ですか。”(2021年2月調査より引用※、太字は筆者)
 
この質問には、少なくとも次の3つ論点が含まれます。
論点1:「汚染水」
わざわざ、「汚染水をため続けています。」という紹介文を差し込んでいますが、貯めているのは処理水です。処理能力が十分に上がる前段階の処理水には、確かに一部取り切れずに残留している放射性物質があります。それを殊更に「汚染水」と説明することで、ある種の「誘導質問」となっている可能性があります。具体的には、「貯めているのは『汚染水』である」という朝日新聞のオピニオンを回答者に無意識の裡に刷り込み、「環境や健康に悪いモノを放出する」かのような印象を与え、不安感や政府・東電の無責任感を醸成している可能性があります。
 
論点2:「大半の放射性物質を取り除いた処理水」「薄めて」
確かにトリチウムを除去しないので種類的にも「大半」であり、物理化学的または数学的「理想状態」は、現実世界にはあり得ませんので、除去する62の核種について量的にも分子(原子)1個残らず除去することを保証するというものではないので「大半」という表現は嘘ではありません。
しかし「大半」とは極めてあいまいで不正確で誤導的な表現です。これは悪意を持った記者や記事に感じる卑怯な点なのですが、いつも理想世界と現実世界のギャップを逆手にとって「ゼロではない」ということから「可能性がある」「恐れがある」と表現して恐怖を煽る手法には人間の持つ醜い邪心を感じます。
この部分には、明確に「基準値以下」のレベルまで除去し、その上放出するのは「環境や健康への影響面で影響のない濃度」まで希釈した処理水であることを説明しないと不正確でありアンフェアでしょう。
 
論点3:「汚染水」表現の復活
論点1でも注目した「汚染水」という誤導的な単語は、実は2018年と2019年の質問には使われておりません。質問文言中の同一部分について2018年と2021年を抜粋して下記の通り比較します。
2018年:“福島第一原発では、大半の放射性物質を取り除いた処理水をタンクに”
2021年:“福島第一原発では、汚染水をタンクに”
(太字は筆者)
 
なぜこのように変更したのでしょうか。2018年の方がまだ事実に近いと感じます。2021年の方は、質問項目を作成した責任者の何らかの意図を感じざるを得ません。(個人的感想)
 
 
◆ 4年間で賛否は接近
時系列のうち、2018年と2021年を円グラフで比較しました。(グラフ3参照)

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福島であっても、反対は減少している一方で、賛成は増加しており、賛否は拮抗に近づいております。仮定の話として、反対が多数になる方向への朝日新聞の意図的な誘導があったとしても、その“印象操作”は徐々に解けてきているのではないでしょうか。
  
 
◆ 傾向は全国でも福島と同様
朝日新聞の時系列調査の対象は福島に限定した形で実施しておりますが、実は2020年12月に全国を対象にして同趣旨の調査をしておりました。
その結果、福島限定調査とほぼ変わらない結果となりました。(グラフ4参照)

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反対が55%、賛成が32%であり、反対が過半数越えとなっております。
対象地域に加え、調査数も増加し有効回答数が2,100件を超えており、これは従来調査の約2倍です(従来は1,000件前後)。朝日新聞はこの調査に、一体何を期待していたのでしょうか。
  
 
◆ 憂慮される国際世論戦
それにしても憂慮されるのは、復興庁のアンケート調査です。“国内外の反応を把握したいとしてインターネットによるアンケートを行うことなどを検討”(※)と報じられておりますが、本当に実施するのでしょうか。その場合、中国と韓国の反日活動の一環としての影響が予想されます。国内の政治家が海外(特に中国)に同調したり、或いはひるんだりしないかを心配しております。買収される可能性さえも排除できません。
 
※ 処理水の海洋放出 国内外の反応把握へ アンケート検討 復興庁 | 福島第一原発 | NHKニュース

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210502/k10013009431000.html?fbclid=IwAR3xmBi28SoFqp0zNEqqPEUQi6Ff3QlHjvrGJEWhZWF0WpwxxtVOJvoECDU

 

 
中国や韓国では、反日色に染め上げた自国民に対して、「非科学的な印象で“汚染”した(処理水に関する不当な)情報」を放出しており、多くの人々が海洋放出に対して疑いの眼で見ていることは間違いないでしょう。
また、中国の経済的な影響を受ける多数の国で中国に同調することも想像でき、国連のような場では「慰安婦」問題のような不合理な国際世論が形成されかねません。
復興庁は、どのように公正性を担保するのか、今後の議論の推移には要注意です。
 
 
◆ まとめ
朝日新聞は、「汚染水」の表現になんらかの拘りを持っていることが伺い知れました。それがいったい何なのかは不明ですが、報道機関の世論調査としては、設問設計が妥当かどうかについて問題を感じます。
とはいえ、時系列で同趣旨の世論調査を定点観測できたことは、朝日新聞がコストをかけて調査を継続してくれたことによります(他に同種の調査は確認できず)。この点には存在意義を感じざるを得ません。
テレビ朝日の調査では、2021年4月時点で「放出必要」が62%、「不要」が21%となりました。この調査を前提とすれば、政府決定の支持と見做してもよいでしょう。
朝日新聞の調査では、2021年2月時点で、「放出賛成」が35%、「反対」が53%となりました。この調査を前提とすれば、政府決定前の段階ですが、放出には反対だという意見が過半数です。
 
正論6月号から「情報災害と福島」という連載が始まり『「汚染水」という詭弁』という林智裕氏の論考が掲載されていましたが、まさにそれを裏付けるような朝日の世論調査でした。これは世論調査ではなく「世論操作」に近いかもしれません。
 
皆さんはどう考えますか?
 
(おわり)
 
【文責:田村和広】
 
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