情報検証研究所のブログ

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【年末年始の検査数変動による陽性者数推移への影響】 ~年末年始抑制分が1月5日分を5割押し上げた可能性~

首相官邸のウェブサイトによれば、菅総理は1月7日、
“ 「年末年始からの感染者数は極めて高く、本日、東京では2,400人を上回るなど、ここ最近、全国的に更に厳しい状況となっており、強い危機感を持っております。(略)これを踏まえ、特別措置法の規定に基づく緊急事態宣言を発出いたします。(首相官邸サイトより引用、太字は筆者)”
と述べました。
 
ここでは宣言の対象地域を代表して東京都の感染者(陽性者)数を挙げて危機感を表明しておりますが、日本全国の数字が政策判断の根拠であることは「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の資料等を見ても自明でしょう。

新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等|厚生労働省

ところが、この感染者(陽性者)数の推移ですが、年末年始特有の検査体制の制約と見られる不自然な落ち込みと三が日明けの正常化による増加が観測されます。グラフ1で、1月1日から1月4日までの数値には「少ない」印象を受けますが、特に4日月曜日よりも5日火曜日の方が40%以上も増えているのは異例です。一週間の中では火曜日が最も少ないことが通例だからです。この期間は、緊急事態宣言が再発出される際の重要指標になるので、需要は低いと想定しますが後日の備忘録として特に検証しました。
 

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◆ 曜日別検査数推移
まずは年末年始の12月29日から1月8日までの検査数の推移を見て行くと、グラフ2の通りとなります。(やや見にくいので前4週を100%とした相対値による推移を表したのがグラフ3となります。)

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12月1日~28日の4週間平均(灰色折線)に比べて、12月30日(水)から1月3日(日)までの間は各曜日24%~67%ほど少なくなっておりました。その後、1月4日(月)から前週比で増加に転じ、特に5日(火)は73%増、6日(水)は112%増という状況でした。これは「反動による増加」の可能性が考えられます。
 
◆ 特殊要因を補正した陽性者数推移(推定計算値)
年末年始の攪乱要因を除去したのがグラフ4の赤点線棒グラフになります。1週間の合計数を12月の曜日特性に合わせた相対度数で按分しました(各数値は添付の表1ご参照)。この仮定によれば、通常の曜日周期に比べて、1月2・3・4日に報告された陽性者実数は少なく、5日の実数は約5割ほど過大になっていることが読み取れます。6日も同様の計算はできますが、増加要因が、「実態としての急増」なのか「攪乱要因による表面的な増加」なのかの区別がつきにくいのでここでは公表を控えます。

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◆ まとめ
テレビなどのマスメディアでは「表層的な数字」を基礎とした緊急事態宣言に関する論評が盛んになされております。大晦日に急増した数字や年始明けの陽性者数記録の連日の更新を見れば視聴者の心が動かされるのも仕方がありません。
しかし、実態としての騰勢を把握することは、大変地味ですが冷静な思考にとっては必須だと考えます。少なくとも1月5日火曜日の新規陽性者数発表値は5割ほど年末年始要因で押し上げられている点などには注意が必要です。検査数の増加を考慮すれば、6日も上乗せされている可能性はあります。7日以降に関しては、特殊要因は殆どない可能性があります。
専門家以外は誰も着手しないと思い作業しました。唯の計算値ですのでお取り扱いにはご注意ください。
(なお、NHKをはじめとするメディアの発表値と厚生労働省のオープンデータと間には差異があります。それは、厚生労働省の数値はメディアの把握値から1日遅れているようであることと、メディアの合計値には少し不整合がありそうなことが、その原因と思われます。私は厚生労働省の発表数値を一貫して集計しております。)
 
(おわり)
 

【文責:田村和広】

 


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