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【ケーススタディ:「新規陽性者数」情報をどう読解すべきか(続編)】 ~連立方程式の解=「爆発的感染は一旦回避」~

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テーマ: 「デジタル庁の本当の課題」
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☆その他詳細はこちら☆
https://johokensho.hatenablog.com/entry/2020/11/22/231001
 
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11月25日に開示された厚生労働省のデータは極めて重要です。25日のデータから「連立方程式」を解けば、次の解が出力されます。
「日本の“第3波”が“爆発的感染”に一直線で突き進む状況は一旦回避できた可能性を示す解」
 
これは分析すると、「北海道が11月7日に警戒ステージを2から3へ引き上げた施策の効果」が出始めた可能性を示唆しております。
北海道ではその後、17日にも札幌限定でステージ4相当と認定し、防止策を一層強化しました。更に、27日と定めていた防止策の期限を12月11日まで延長したので、北海道においては、ゼロ附近までの終息は難しいにせよ、少なくとも急速な感染爆発は一旦回避できた可能性が高いです。
  
◆ 25日(水)、新規陽性者数の曜日的規則性が破れる
  
曜日別平均の実績値から帰納すると、日本における新規陽性者数の認識には曜日ごとの規則性があり、具体的には「火曜日が最も少なく、土曜日に最も多い」という傾向と、「土曜日にかけて増加し火曜日に向けて減少する」という一週間のサイクルがありました。
これらは、経験から帰納的に抽出された法則「曜日周期性」であり、これを演繹的に将来に適用する作業が「根拠のある将来予測」と考えます。
一方、ただ単に実績値の推移にフィットする近似式を探して、それを適用して将来の数値を計算する方も多く、諸説を提唱しておりますが、それらを「帰納的に導いた」と言い切るのは少し苦しく感じます。(自戒を込めて、踏み込んで表現するなら「後知恵でフィットする曲線の関数を創った」という方が近いと感じます。)
 
24日までは、この規則性、つまり曜日周期性が保たれて、週毎の増加傾向が地層のように重層化する様が視覚化されておりました。ところが昨日25日になって、この規則性が破れたことが明確に見て取れます(グラフ1参照)。赤い折線が今週の動きですが、昨日25日水曜日に日本が爆発的増加のコースから一旦外れた可能性を示唆するサインと考えられます。勿論、本日以降、周期性を回復する可能性もあり、その場合この1つのサインは、ただのダミーである可能性も十分あります。

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◆ 法則を破った主要因は何か
 
次に、「では、その法則性を破った主要因は何か」を考えます。「ファクターXがあるから」という説はここでは無力です。なぜなら「そもそもファクターXがありながら、なぜ急増期になったのか」を説明できないからです。
「何らかの要因(ファクターX)で、確かに感染の速さまたは拡がりが日本は欧州等諸外国とは違う」という可能性は十分ありますが、その条件のもとで感染が急増したのが“第1・2・3波”です。増加要因と抑制要因の双方の均衡が破れて11月に急増したならば、「新たな抑制要因」が働いていなければ、このタイミングで自然に収束するには不自然に速い動きです。そこで、その「新たな抑制要因」とは何かを探しました。
 
時間的な相関性を持つ抑制要因の一つは、「北海道のステージ引揚げと抑制策発動」でした。
  
 
◆ 推定感染日に遡ると何があったか
  
厚生労働省の発表は、実際の感染日から平均で13日程度のタイムラグがあることは過去の事例から合理的に推定されております。それが短縮されていないという前提で遡及すると、25日(水)の2週間前は11月11日(水)となります。
これまで“第3波”を数量的に牽引したのは、北海道や大阪など東京以外の地域でした。これらの地域で11日前後に最も敏感に適切な対応をしたのは、北海道でした。
 
北海道では、11月7日(土)、「警戒ステージ」を2から3に引き上げました。これにより、札幌市の繁華街、ススキノの接待を伴う飲食店などに営業時間の短縮などを要請しました。これは、飲食店や家庭内といった感染可能性の高い場所に対する抑制策であり、この効果が2週間余り経過して顕在化したと考えるならば、時間的な相関関係にも一定の納得感は得られます。
北海道の推移(グラフ2参照)を分析すると、火曜日(黄色)は単調増加中ですが水曜日(赤)は25日に初めて減少に転じております。やはり全国と同様に「曜日周期性」も破れております。

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ただし、これらをもって「因果関係である」とまで言い切ることには慎重でありたいと考えます。なぜなら物理的な人的移動の総量の変動など、もう一段深い、具体的な定性分析を伴っていないからです。
なお、北海道では、抑制効果が待ちきれず、11月17日になって札幌限定で「警戒ステージ4相当」に引き上げ、一層強い措置を取りました。この効果が可視化されるのは、2週間後の12月1日頃(点線白棒)ですので今後の動きに注目です。更に、抑制効果が見えてきた現在でも期待を下回ったと見え、抑制措置は来月11日まで延長される予定です。
  
 
◆ 他の指標はどうなのか
  
曜日周期性に加え、移動平均にも一本調子の急増に一旦陰りのサインが出ております(グラフ3参照)。しばらく(数日から2週間程度)弱い増加または増減を続けたのち減少に転じる可能性が示唆されております。
 

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[ 要入院者 ]
入院者数が急減するサインである、「要入院者数の前日比増減」も、昨日25日(水)になって、急速に0近傍まで低下し、前回(17日火曜)の急低下を下回っております(グラフ4参照)。ただし、これも未だ「踊り場(停滞)」なのか減少トレンドへの転換なのかは判断できません。 

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これで、「曜日周期性」「移動平均」「要入院者数」という3線の交叉点として「25日(火)、増加から減少へのトレンド転換サイン点灯」という「連立方程式の解」が得られております。
  
 
◆ ではこれで安心なのか
  
結論から言えば、「爆発的な感染拡大は一旦回避できたが、まだ先送りしただけと考えるべき」でしょう。
その理由は、「東京・名古屋・大阪など、圧倒的多数の人口を抱える大都市圏で流行する兆しが消えていない」からです。
これは傍証に過ぎませんが、感染症対策会議分科会が「ここから三週間が」と警鐘を鳴らし始めたのはそれを十分承知し、年末年始という感染拡大イベントを約1か月後に控えた現在、それを見据えて更なる抑制につながる行動変容を国民に促す狙いがあると推定します。
 
日経新聞によれば、
“政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は25日、感染対策が徹底できない場合は感染状況が2番目に深刻な「ステージ3」に相当する地域との往来を今後3週間、自粛するよう求める提言をまとめた。政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」で感染が拡大する地域からの出発分も一時停止の検討を要請した。(日経新聞11月25日より引用)”
とある通り、「今後3週間の自粛」を提言しました。
  
 
◆ まとめ
 
  • 複数指標の連立方程式を解くと、日本におけるCOVID-19の一本調子な「爆発的拡大」は一旦回避された可能性がある。
  • しかし、寒さで屋内の密閉性が高まるなど季節要因はこれから本格化する。
  • 増加要因と抑制要因の“綱引き”次第では、一旦踊り場を形成して再度「次の波」がやってくる可能性も全く否定できない。
後講釈が上手くテクニカルタームを駆使して「賢明な解説」をする方も多いですが、よく見れば殆ど将来予測を表明しないか、しても外していることが多いです。「〇〇脳」と揶揄し、他者を「情弱」と断定する方々の中には、典型的な「ダニング=クルーガー効果」によるバイアスの虜になっている方も見受けられます。自戒を込めて申し上げますが、科学を装った非科学的な言説には注意が必要です。
本稿も、あくまでも「トレンド転換の兆し」にフォーカスして論を展開しており、その観点では偏った仮説です。引き続き警戒が必要な情報も続々と上がってきますので、「爆発的な拡大はないだろう」と断定するのは早計です。
振り返れば尾身会長は、確かにクリティカルポイントで強い警告を発出し、「ポイントオブノーリターン」を超えてしまうことを回避してきました。今回もその声に真摯に耳を傾ける時ではないでしょうか。
  
 
(おわり)
   
(参照サイト)
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北海道 警戒ステージ「3」に ススキノで営業時間短縮など要請 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

新型コロナ 国内感染者数のニュース一覧 | NHKニュース

新型コロナ:道内の発生状況 | 保健福祉部健康安全局地域保健課

新型コロナ:札幌に不要不急の外出自粛要請 北海道 :日本経済新聞

北海道 コロナ集中対策2週間延長 札幌の接待飲食店休業要請へ | 新型コロナウイルス | NHKニュース

新型コロナ:感染急増地域と往来自粛 コロナ分科会が提言 (写真=共同) :日本経済新聞

 

【文責:田村和広】

 


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