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【検証:死亡者数推移とリスク評価】 ~死亡者数1,963人のCOVID-19を、なぜ用心すべきなのか~

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テーマ: 「デジタル庁の本当の課題」
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ホスト: 岸博幸慶應義塾大学 教授、加藤康之・株式会社TIE代表取締役、原英史・株式会社政策工房 代表取締役 ほか
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johokensho.hatenablog.com

 

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一つ前の記事では、下記のように結論しました。
  1. 現在マスコミが伝えている“第3波”の数値について、「サンプルが一定でないと統計的な意味がない。」という主張は妥当である
  2. 検査数の規模に基づき補正して比較するならば、現在の陽性者数の増加傾向は、“第3波”として捉えるとしても、まだ相対比較では“小波”と表現すべきであり、入り口とするならば、本格的な波は今後の動向次第である
  3. ただし、「真の感染者数が増加しているから検査が増えた」可能性は排除できないことには留意すべきである
 
 
その上で本稿では、
「現在はCOVID-19の感染拡大に対する警戒が必要な時期である」
とします。一見矛盾する話に感じると思いますが、警戒すべき理由について記述して参ります。
 
 
◆ リスク評価と警戒の必要性について
  
論考『新型コロナ「第3波」は来たのか』で、池田 信夫氏(アゴラ研究所所長(学術博士))は、下記の主張を展開されております。
  • “「新規感染者数が初めて2000人を超えて第3波が来た」とか「東京都で初めて500人を超えた」と騒いでいるが、これは正確にいうとPCR検査の新規陽性者数で、サンプルが一定でないと統計的な意味がない。
  • 感染の実態を正確に示すのは、新規死者数のデータである。
  • “これから12月にかけて死者が増えるおそれがあるが、それでも死者は累計で約2000人。毎年3000人~1万人死ぬインフルエンザよりましだ。
  • “今後もヨーロッパからの入国者の検疫は厳格にやるべきだが、国内の自粛強化は必要ないだろう。
  (同論考より引用、太字は筆者)
 
確かにこれらは冷静な評価であり、これまでの約10か月間にわたる経験から帰納的に考えるならば、極めて妥当だと私も考えます。ただし肯定するのは、「現状の直線的な延長上に未来がある」と仮定する限りにおいてです。
 
「死者は累計で約2000人。毎年3000人~1万人死ぬインフルエンザよりましだ。」の部分に関しては、少し違う考え方を持っているので、私見を述べたいと思います。(否定しているわけではなく、私は別の見方をしているというだけのことです。)
  
 
◆ COVID-19に関するリスク認識(国内)の変遷
  
様々なリスク要因に対して、冷静に死亡リスクを比較することは重要です。しかし、リスクを職業的に扱う人を除き、一般的には様々なバイアスがかかるので過小評価か過大評価のどちらかに偏ります。願望や原始的な脳の仕組みによって、正しく認識することは困難な作業となるからです。
  
流行第1波(2月~5月):
当初、SARS-CoV-2は「新型コロナウイルス」と呼ばれている通り初めて出会う“未知”の感染症であり、その性質や対処方法がよくわかりませんでした。そのため、感染力の強さや致死率については「中国」からの暫定値しかわからず、その新規性に人々は強い不安を抱きました。結果としてリスクは過大視され、政府や医療機関では安全マージンを多めにとり、今から振り返れば過剰な対応もしておりました。しかしその強い不安感には、人々の行動変容を促す効果が十分にあり、日本においては、欧州各国のような感染爆発や重症者が溢れる医療崩壊は、未然に防ぐことができました。
 
流行第2波(7月~9月):
国内における知見が蓄積された結果、ワクチンなどは未開発ながらも医療従事者の努力で効果的な対処法がわかり、この時も感染爆発や医療崩壊が起きる前に一旦沈静化しました。
 
流行“第3波”(10月~)
現在流行が始まったように見える“第3波”はどのように考えるべきでしょうか。検査数の増加を考慮した場合には、波が始まったとしても未だ“小波”であることは先の記事で示しました。では「マスコミは騒ぎすぎ」として特に警戒する必要もないでしょうか。
  
 
◆ “第3波”の新規死亡者数は増加傾向を示す
  
死亡者数の推移を示すグラフ1を見ると、実数も移動平均もその推移は、現在が“第3波”の入り口である可能性を示唆しております。

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昨日から本日にかけて陽性者数がピークアウトした場合、死亡者数のピークアウトは3週間後の12月12日前後であり、その場合死亡者数は累計で2,200人前後となるでしょう。
11月21日(土)に政府が示した「Go To キャンペーン見直し方針」が人々の行動変容を促したと仮定しても、その効果が新規PCR件数の減少につながるのは早くても1週間後の11月28日頃であり、そこから死亡者のピークアウトまでは3週間から1か月はかりますので、死亡者数が第2波を超える可能性は非常に高いと考えるべきで、その場合、死亡者数は累計で2,300人~2,500人前後になるでしょう。
もし、21日(土)のアナウンスメント効果がなく、それ以上収束方向に向かうのが遅れる場合には、第1波を越える可能性もあり、その場合には、死亡者累計3,000人台も十分あり得るでしょう。しかしそれでもまだインフルエンザと同水準です。警戒するのはやはり過剰な心配なのでしょうか。
  
◆ なぜ警戒すべきなのか
なぜ、死亡者数が少ないのにインフルエンザよりも警戒しなければならないかというと、この感染症の厄介な特徴として、
 
“無症状の段階でも強い感染力を持つ場合がある”
 
ことが背景として挙げられます。
 
感染症リスク)=(感染性)×(致死性)
 
という要素分解した場合、この「無症状者からの感染」を考慮するならば、SARS-CoV-2はインフルエンザウイルスよりも感染性が高いと考えるべきであり、致死性が同水準だとしても、感染症リスク全体としてはインフルエンザよりも高いと認識すべきだからです。万一、感染者数が医療キャパシティを超越すると、致死率も急上昇し死亡リスクも急角度で増大(確率変動)します。
また、社会における感染拡大がある段階を超えると、感染力の強い「無症状者」が市中に多数存在し、気が付いた時には通常の意識変化だけでは蔓延は止まらず、「強い移動制限」などの抑止策が必要となります。その場合、経済をはじめ社会に対する負の影響が甚大になってしまうため、インフルエンザよりも死亡者数が少ない現状でもインフルエンザ以上に警戒が必要になるのです。
各種の保険は多くの人にとって「払い損」になりますが、保険をかける人を「心配しすぎ」とはあまり考えないことに似ているでしょう。
 
振り返れば第1波が始まった頃には、例えば、
 
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は24日、「これから1、2週間が(感染が)急速に進むか収束できるかの瀬戸際となる」との見解を公表した。(日経新聞2月24日記事より引用。太字は筆者)”
 
とある通り、専門家(尾身茂氏他)から「瀬戸際」などの言葉を聞かされて、非常に高い緊張感を持たされ、大いに自粛したものでした。(自粛が正解だったとは考えておりません。)
結果として2週間後の3月9日前後の新規陽性者数は殆ど増加しませんでした(2月24日以降のこの種の呼びかけの効果と断定するには慎重な確認が必要です)。つまり、武漢由来のウイルスによる感染拡大は抑えることに成功しました。しかし、その後の3月末、欧州由来のウイルスによる流行第1波を招来してしまいました。
  
◆ 今まさに、流行分岐点に再び差し掛かっている
  
これは死亡者数ではなく新規陽性者数からの話ですが、
3月30日の新規陽性者数は173人でした。
11月18日の新規陽性者数は172人です。
(ただし検査数倍率補正後の数値比較)
つまり、(補正後)新規陽性者数について見るならば、現在は第一波の推定感染日ピークである3月30日頃と全く同水準なのです。
はたして現在、あの頃と同じ緊張感と社会全体の行動変容が起きているでしょうか。
 
仮にこの分岐点を拡大側に進む時、直接の致死率には最大で2桁程度上昇するポテンシャルがあり、経済低迷に由来する心身の病からの関連死者数も増大することが予想されます。(予想値の公表は控えます。)
万一にも、そのような事態に至らないよう、現状の感染拡大傾向を収束方向に展開することが望ましいと考えます。
「ファクターX」(※)という未だ明確には判明していない要因に頼って「日本は心配ない」と考えることは“賭け”または信仰に近い行為であり、個々人はそれでもいいですが、政府や自治体または医療施設としては選択肢にはなり得ないでしょう。
※ 「ファクターXはない」とは言いません。むしろ何かあるのではないかと考えております。「その仕組みが解明されておらず、効果の大きさが不明瞭な現段階でそれを前提に置くことはできない」と言っております。
  
 
(おわり)
 

【文責:田村和広】

 


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