情報検証研究所のブログ

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【フランスのCOVID-19“第二波”に注目】 ~貴重な事例として学びたい~

9月30日現在、フランスなど一部の国において、COVID-19の“第二波”が到来しております。しかし第一波(春の流行)と異なり、新規陽性者(感染者)数は増大するのですが、その割に死亡者数は増えておりません。一体何が起きているのでしょうか?
  
◆ フランスの状況
 
厚生労働省の報道発表資料によれば、9月30日現在のフランスの感染者は544,332人、死亡者は31,815人となっております(厚生労働省ウェブサイト報道発表資料の「日本国外で新型コロナウイルス関連の肺炎と診断されている症例及び死亡例の数」より引用 ※1)。
また、その3月からの推移(図1参照)は、感染者数については2度のピークを形成しており、第一波より“第二波”のほうが激しい印象です。一方死亡者数は第一波に比べて“第二波”は殆ど変化がないように見えます。
「感染者数の多さに比べ死亡者数が少ない」という状況を受けて、各種の仮説(「弱毒化か」「2度目なので軽い」など)も主張されております。図1のグラフを見る限り、例示したような仮説も正しそうな印象を受けます。
しかし本当でしょうか?
少し目線を変えて検証しました。
 

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◆ “第二波”に焦点を絞ると
  
観察期間を“第二波”に絞りました。これにより、先程とは違う風景が見えて参りました。(図2参照)
図2では、図1のグラフに対して次の2つの変更を実施しました。
① 第一波の期間を除外し、推移を6月1日以降に絞った
② 死亡者数の目盛(右目盛)の最大値を100人とした
これらの変更の結果、死亡者数も増加に転じる兆しが出ていることが判明しました。図1では良くわからなかった理由は、第一波に比べると“第二波”では死亡者数の絶対値が余りに少な過ぎてその変化が殆ど目視できなかったためと推測します。
 

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しかし、感染者数は既に第一波を越えているのですが、なぜ死亡者数はけた違いに少ないのでしょうか?
事情を調べるためにフランス公衆衛生局のウェブサイトを訪れました。
  
 
◆ フランス公衆衛生局は警鐘を鳴らす
  
“9月17日の疫学ポイント
Covid-19:すべての指標の大幅な増加、より警戒へのシグナル(フランス公衆衛生局COVID-19情報サイトより ※2)”
“9月17日の流行監視指標は、ロックダウン解除後初めてCOVID-19による死亡が増加したことを示しています。そしてこれらのシグナルは、市中や医療施設の状況が悪化していることを示しています。各種の推定によれば、まだ感染を抑制する集団免疫水準には達していないことが示されております。特にハイリスク層に対して最大の警戒態勢が維持し、より体系的な対策を採る必要があります。2020年9月18日更新。(フランス公衆衛生局情報サイトより。逐語訳ではなく筆者要約)”
(筆者はフランス語が全く読めないので、翻訳サイトを活用しました。そのため、上記の要約和文は、正確さに関する信頼性の低い文章です。正確な意図の読解が必要な場合、フランス語本文を必ずご確認ください。)
元のフランス語文章は以下の通り。
“Point épidémiologique Covid-19 du 17 septembre : hausse importante de tous les indicateurs, un signal à plus de vigilance
Publié chaque semaine, le point épidémiologique relatif à la surveillance de la Covid-19 présente une analyse détaillée des différents indicateurs mis en place par Santé publique France et ses partenaires pour suivre l’évolution de l’épidémie et orienter les décisions publiques. Le point épidémiologique du 17 septembre révèle que l’ensemble des indicateurs de suivi de l’épidémie est en augmentation et pour la première fois depuis la levée du confinement, on observe une augmentation des décès pour COVID-19. Ces signaux montrent une nette dégradation de la situation en ville comme en milieu hospitalier. Les premières estimations de séroprévalence montrent que le niveau d’immunité collective est trop faible pour permettre de contrôler la circulation virale. La plus grande vigilance reste de mise, en particulier auprès des populations les plus à risque de complications et les mesures barrières doivent être adoptées plus systématiquement par l’ensemble de la population.
Mis à jour le 18 septembre 2020
(フランス公衆衛生局COVID-19情報サイトより ※2)”
  
 
◆ フランスも検査数を大きく増やしていた
  
フランス現地情報を日本語で紹介してくれるサイトによれば、少なくとも5月11日の段階では、感染症状がある全ての人が検査を受けられる状況ではなく、その後9月11日には十分な体制が整えられていることが伺われます。春の感染者急増期には、十分な検査体制がなかったために真の感染者数よりも少なく計数していたと推測できます。夏の感染者急増期には、春よりは拡充した検査体制で多くの陽性者を確認しているようです。これらの結果、新規感染(又は陽性)者数は第一波よりも“第二波”でより多く確認しているという可能性も推定できます。
結局、この点は日本の状況に似ているとも言えます。(ただし正確な数値が追えないので、信ぴょう性は「可能性がある」というレベルです。)
“ 2020年9月11日カステックス首相の会見
フランス全国で新型コロナウイルスの感染が再拡大しており42県が赤ゾーンとなっている。新規入院者数も数ヶ月ぶりに急激に増加している。
現在、フランスでは毎日100万件のPCR検査が行われており、ヨーロッパでは第3位である。その分、検査機関での待ち時間が長くなっているが、感染症状のある人、濃厚接触者、医療従事者などが優先的に検査を受けられるような体制を整える。(Tricolor paris(トリコロル パリ)ウェブサイトより引用 ※3)”
本当に「毎日100万件」もできているのかどうかよくわかりません。検査が渋滞しているという話もあるようです。
5月11日以降は感染症状のある人全員が検査を受けられる体制になるよう、現在準備を進めている。(前掲サイトより引用)”
 
要するに、検査を大規模に行っているために陽性者数の捕捉も増えたという要因もありそうです。今後、死亡者数が一層増加するのかどうかに注目です。
 
 
◆ 情報は大切
  
COVID-19は、情報戦の側面も持っていると考えます。第一波の頃、SARS-CoV-2とは「未知のウイルス」そのものでした。振り返るとダイヤモンドプリンセス(DP)への対処によって日本がいち早く豊富な一次情報を入手できたことは幸運でした。DPという「先行事例(≒実験的データ)」は対策の要領に関する知見とリスク状況(感染の広がる能力と致死性の高さ)の概算値を日本にもたらしました。流行当初は、中国はともかくWHOでさえその発信情報は暫定版に過ぎなかったので、相対的にDPの一次情報は極めて有益な疫学情報でした。
  
◆ 他国情報は日本の対策を向上させる宝
  
春、イタリアの惨状には心が痛んだものでした。しかしそこから得られた知見は有益なものでした。SARS-CoV-2にはいくつかの特徴がありますが、特に「タイムラグ」は対処の上で配慮すべき重要要素です。各種のタイムラグを理解するかどうかが、この感染症を理解し適切な対策を打てるかどうかの分かれ目でした。
情報戦の観点から、イタリアの惨状がもたらす情報は重要でした。中国情報よりもイタリア情報の方が信頼感も高く、また重要事実を浮き彫りにしてくれたため、日本における第一波の死亡者数の予測に役立ちました。(4月21日時点で、「日本の5月末死亡者数=853人」と予測し(実際は891人)、その他のデータとストーリーを加味した期待値計算と合わせて情報検証研究所に投稿しました。)
今回はフランスに注目しました。フランスでは、7月から8月にかけて夏季休暇(バカンス)を楽しむ習慣があり、これにより人的交流が増加したとも言われております。ただ、その定量的な影響度は不明です。この習慣の他にもフランスと日本では社会性に大きな違いがありますが、必ず参考になる情報はあります。「フランスがどのようにこの再流行を収束させるのか」などの情報から教訓を抽出できるかもしれません。
  
日本の組織では、現実よりも内部事情を優先した意思決定をしがちですが、情報(実証データ)を重視する文化を育んで行きたいと考えます。
  
 
(おわり)
  
(参照サイト)
=======================
※1 厚生労働省ウェブサイト報道発表資料:

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13863.html

 

※2 フランス公衆衛生局

https://www.santepubliquefrance.fr/presse/2020/point-epidemiologique-covid-19-du-17-septembre-hausse-importante-de-tous-les-indicateurs-un-signal-a-plus-de-vigilance?fbclid=IwAR2Lc71LHkPwmqlh7yDUNrTkZd_0vYvBl3LC-8007db1u8fvyiRWWTQ4QhM

※3 Tricolor paris(トリコロル パリ)ウェブサイト情報ページ:

https://tricolorparis.com/actu/societe/coronavirus-france/

 

 

 

【文責:田村和広】

 


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