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【検証:緊急事態宣言の効果】 ~計算上、自粛の役割は一旦終了。1日も早く解除すべき~

(本稿は、「推定感染日」という公的な認定を何も受けていない概念を基に論じた仮説です。それに基づく各主張は筆者の私的見解にすぎません。)

 

◆ 概要

● 公開情報から「感染日」を推定した結果、「緊急事態宣言と国民の自発的な活動“自粛”を前提とする接触削減」政策の効果を計算上で捕捉することができた。
●算定の結果、自粛活動による収束は18日早まることになった。
●4月8日段階の限定的な情報では、緊急事態宣言を発出したことに一定の合理性は認められる。しかしその2週間後には収束に向かっていることの予見は可能であり、5月4日段階で緊急事態宣言を延長したことは判断ミスだった。
●効果の小ささと役割の一旦終了が確認できた現在は、高齢者施設対策を施した上で1日も早く全面解除すべきである。

◆ 報告日から14日遡って「感染日」を推定(図4)

5月20日に検証報告した通り、「発症から(報告・認識・)公表まで」タイムラグが約7.8日間ある。加えて「感染から発症まで」のタイムラグは5.8日(:WHO報告。専門家会議では約5日)あるので、結局「感染から(認識)公表まで」合計13.6日間≒14日間(2週間)のタイムラグがある。今回はこれを基に、報告日から14日遡った日付を「感染日」と推定することとし、厚生労働省データの日付を遡及して「推定感染日」ベースの感染数の推移を作成した。ここで、日々の振れが大きいことと、14日は平均値であって確実な状況とは言えない状況を勘案して、今回は「7日移動平均(当日±3日)」でデータを扱うこととした。結果は図4の通り。

 

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推移グラフ(図4)から読み取れるのは以下の通り。因果ではなく前後関係があるだけである。

1. イタリア等感染拡大が著しい国からの入国を制限した3月21日から約1週間後となる3月29日に感染者はピークを打ったと推定される。
2. 4月1日開始の米国等からの入国を制限した直後から感染者数は急速に減少し始めた。
3. 4月8日開始の国内(部分的)活動自粛以降、感染数の減少速度が一層加速したと推定される。
4. 4月25日頃には、新規感染者数が100名を切り、横ばい期に移行したと推定される。

 

◆ 自粛の効果を検証

推移グラフ(図4)から推定される事柄のうち4月8日前後での減少速度の変化に着目し、更に細かく検証したのが図5と図6である。

 

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図5と図6で示される推移から、明らかに推定感染者の減少数(=速度)が日々小さくなっている。これはマイナスの加速(=ブレーキがかかっている)を表し、その加速度は-10.5人/日(3/29~4/7)と-18.7人/日(4/8~4/25)であり、約1.8倍である。これは明確に減少方向に働く力が増加した(=より強くブレーキがかけられている)ことを表している。

 

◆ 自粛効果の計算結果:「18日間短縮効果」

自粛解除の基準の一つである、「1週間で10万人あたり0.5人」とは、日々に換算すると1日当たり90人となる。ここに到達するには何日かかるか、近似直線を1次方程式として解くと結果は次の通り。

「自粛」無しの場合⇒ 3月29日から45.7日後の5月14日頃
「自粛」実施の場合⇒ 4月 8日から18.1日後の4月26日頃

 ※ 「45.7日」の計算:(569.21-90)÷10.495≒45.7
 ※ 「18.1日」の計算:(428.30-90)÷18.689≒18.1

 

結論:
1. 自粛によって「90人/日以下」に到達する期間を18日間短縮した。
2. 極めて有効な施策であったが、対象となる感染の状況が小さすぎて、効果の絶対値は余りにも小さく、費用対効果は圧倒的な「コスト超過状態」である。
3. 欧米諸国の状況に恐怖するあまり、エボラ出血熱狂犬病のような「死に至る可能性が高い病」に対して行使すべき強力な手法で、インフルエンザと余り変わらない致死性の感染症(COVID-19)に対処してしまった。(インフルエンザは重い病であり、軽いとは言っていない。)
4. 専門家会議の打ち出す対策は効果的であった。寧ろ効果が甚大過ぎるとさえ言え、責務を十分果たしていると評価すべきだろう。

 

◆ 政策判断の是非についての検証結果

● 緊急事態宣言下の自粛(4月8日開始)
緊急事態宣言に伴い4月8日から開始された活動自粛には、確かに「感染爆発」を未然防止する力が十分あった。しかしながら、従来からの自発的な衛生管理(国民と保健所と各種施設他)と入国制限措置だけで、実は減少に向かっていた日本において自粛は、“駄目押し手”とも言える施策であり、結果論としては不要だった。ただし、不要だったと判断できるのは4月下旬頃に実際に減少方向のモメンタムを観測できるようになってからであり、3月末から4月上旬の段階では「感染が爆発するか/沈静化するか」は判定不能である。その点を考慮せず、「4月8日からの自粛は誤り」という短絡的な結論もまた誤謬である。

● 自粛要請の延長(5月はじめ)
これは、判断ミスである。この頃(5月当初)には、「推定感染日」でなくとも専門家会議が開示した「推定発症日」ベースのデータでも、「感染は3月末から4月当初にかけてピークをうちその後反転減少期に入った」と推測することが妥当である。
つまり、次の2点で妥当ではない。
問題点1:「実態の影」に過ぎない報告日現在(=実際の現象の2週間後)の感染確認数(=真の感染数の影)で、小さすぎて誤差に近い数値である「90人/日」を設定し必要以上に自粛期間を延ばすこと
問題点2:効果があるとはいえ、その大きさが余りに小さい。経済の背骨が折れるような施策を継続する価値はない。感染爆発を回避できたことが明確になった5月以降の、新型コロナウィルスの根絶を目指しているかのような過剰な自粛延長の妥当性は低い。費用対効果の効率が余りに悪い。

 

◆ まとめ

欧米諸国の状況に恐怖するあまり日本は、エボラ出血熱狂犬病のような「死に至る可能性が高い病」に対して行使すべき強力な手法で、インフルエンザと余り変わらない致死性の感染症(COVID-19)に対処してしまった。言うならば牛刀割鶏である。

欧米の感染爆発と医療崩壊は悲惨だが、要因は現在不明ながら日本においてはその回避に成功している。この状況では、感染症対策としては甚大な被害を生む可能性のある高齢者施設と医療施設に対する次の波への備えを充実させることに局限すべきである。

問題は、経済政策とのバランスを取れていない点にある。現在の日本に必要なことは、経済的困難の緩和と回復に全力を尽くすことである。

「妥当な警戒」が必要なことは当然だが、今回はマスメディアを中心とした「不安喚起ビジネス」に日本国民と政府が踊らされている可能性が高い。

日本は、相変わらずの「マスメディアという病」を根絶することを目指すべきであろう。

 

【文責:田村和広】

 

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