情報検証研究所のブログ

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【検証:ロックダウンに意味はあるのか】 ~ ロックダウンの肝はタイミング ~

 「ロックダウンした諸国で感染が広がっているからロックダウンに効果はない」または「ロックダウンしてもしなくても感染が広がる」という言説がありますが本当でしょうか?

 

 結論としては「間に合えば効果が高い可能性があり、間に合わなければ効果が低い可能性がある」ということだと考えます。今回はその傍証となる事例について検証しました。タイミングに関して対照的な2国について比較を行いました。タイミング以外を全て同一条件で揃えることは不可能なので、あくまでも「命題『ロックダウンには効果がない」に対する反例の一つとして、こういう事例がある。だからこの命題を否定はしないが断言をするのは時期尚早である。」ということが本検証のメッセージです。

 

◆対照的な2つの国、イギリスとノルウェー

 5月31日現在、イギリスは27万人を超える感染者と38,376人の死亡者を出しております。
 一方ノルウェーでは、感染者は8,437人に過ぎず、死亡者も236人に留まっております。
 この差は何でしょうか?
 人口はイギリス6,644万人に対してノルウェーが533万人なので約12.5倍の規模の差がありますので、人口10万人あたりの感染者数で比較すると

 

感染者数(10万人あたり。少数第一位を四捨五入)
イギリス 410人
ノルウェー 158人
2.6倍の開きがあります。

 

死亡者数(10万人あたり。少数第一位を四捨五入)
イギリス 58人
ノルウェー 4人
13倍の開きがあります。

 

 感染者数に対して死亡者数の開きが大きいのは「医療崩壊」が起きたかどうかの要因が大きいのではないかと考えます。

 

◆ 注目される対応の違い

 イギリスは3月12日の段階ではいわゆる集団免疫戦略を採用し発表しておりました。
一方ノルウェーは同12日に既にロックダウンを開始しております。
それから11日後の3月23日にイギリスは方針転換しロックダウンを開始しました。
このたった「11日」の差には何か意味があるのでしょうか?

 

◆ 感染者数比較(確認ベース)

まず感染者として確認された人数の推移で検証しました。(図1)

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全体推移を見るだけでは、全く違いが判りません。

そこで、ロックダウンを開始する前後に焦点を合わせました。(図2)

 

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◆ イギリスは増え始めたのでロックダウンを開始

 図2を見ると3月12日時点ではほぼ同数ながら、ノルウェーは早々とロックダウンを開始し、イギリスは、少し増え始めた23日にすぐ変化対応したように見えます。確かに遅いですが、特に「致命的な遅さ」を読み取ることはできません。

 

◆ 推定感染日で見たタイムラグの意味(図3)
 

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 そこで、10万人あたりで規模を揃え、「推定感染日」ベースに直しました。「推定感染日」とは、感染確定日(報告日)から14日間遡った日を「感染した日」と推定して日にちを遡及調整した推定値となります。(これは、厚生労働省などの公的な機関の発表値ではなく、筆者が算定した推定値に過ぎませんので取り扱いにはご注意ください。)

これで見えました。

 傾き(増加速度)の変化に注目すれば、ノルウェーは傾きが急になる兆しの段階(3月12日)、つまり「感染爆発が始まりそうな段階」でロックダウンを開始している一方、イギリスは兆しの段階(3月12日)ではまだ集団免疫戦略をとっており、世論の反発に押されてロックダウン戦略に転換した3月23日の段階では既に爆発が始まってから1週間近く経過していました。このタイムラグ「11日間」に、ノルウェーとイギリスを分けた鍵があると考えます。しかし、これは「推定感染日」の推移を見て初めて掴める実態であり、少なくとも現実から2週間経過しないと解りません。「後講釈」や「後知恵」と言われる種類の知見に過ぎません。

 

◆ ではいつ気が付くべきだったのか?

 「推定感染日」は後知恵ですが、かなりわかってきたこの感染症の感染拡大の特質についての知見を、次の感染拡大の未然防止に生かすために、「では、いつ、何に気付くべきだったのか」を検証しました。(表1)

 

◆兆しは2週間前、イタリアで

 表1にまとめた通り、実は3月12日から約10日遡った3月10日の段階で既に、イタリアでの感染爆発が認識されており、少なくともこの時点で(早ければ2週間前に)隣接地域であるEU諸国やイギリスはリスクの高まりに気が付くことは可能でした。イギリスはもちろん気が付いておりましたが、それでも科学的な見地から集団免疫戦略を採用しました。(そのこと自体は決して否定されるべきものではなく、合理性のある選択の一つであったと個人的には考えております。)しかしイギリス国民は、この戦略の短期的な死亡者数の増大見通しに耐えられず、戦略転換を行いました。

 

◆最小発症菌数(ウイルス数)

 ところで、食中毒を起こすような菌やウイルスについては、「何個取り込むと発症するか」について、「最小発症菌数(ウイルス数)」という指標があります。

例えば、
ロタウィルス 1~10個
ノロウィルス 10~100個

などです。発症するかどうかは、感染者個々の感受性(発症し易さ)にもよるので幅があります。インフルエンザでは1個~とも言われております。今回の新型コロナウイルスでは、これさえまだ確定していないと思われます。

 

◆諸仮説は控えるべき段階
 

 この段階で「自然免疫」「BCG」「集団免疫新説」などを専門外の私達が語るのは控えるべきだと個人的には考えております。「日本(アジア)人がかかりにくい」などは魅力的な仮説ですが、日本の高齢者施設や医療施設で相次いだクラスターの発生を知ってしまうと、最小発症ウィルス数さえわからないのに何も言えないと考えます。たまたま発症しやすい人(20%?)が50人中41人(80%超)も集まる確率は限りなく0に近いはずですが実際には何か所もクラスターが発生しております。

 

◆ 結論 ロックダウンに効果はある

 法令や要請を守るかどうか、または医療制度や保健制度などの国民性の違いは大きく影響しますので、「ロックダウン」という言葉で一括りにはできませんが、一般論としてはロックダウンには効果があると考えます。ただし、最小発症ウイルス数ではありませんが、一定規模の感染者が国内に発生してしまえばロックダウンを行っても“後の祭り”で感染爆発を止める効果はないでしょう。イギリスはその状態だったと考えます。一方、爆発につながる一定規模に達する前にロックダウンを開始すればノルウェーのように感染爆発を未然に防ぐ効果はあると言えるでしょう。

 

◆ 蛇足 ロックダウンが正しいかどうかは現段階では誰もわからない

 ロックダウンの意味を検証してきましたが、ロックダウンで感染爆発を未然に防ぐことが正しいのかどうかはまた別のテーマだと考えております。
取り急ぎ感染爆発を抑えても、ロックダウンを解除すれば感染は再拡大すると考えるべきであり、実際にそのような相関性を示す再開事例(イラン、韓国他)が散見され始めております。つまり、一旦は抑制した感染について、今後も継続して警戒し続け、経済を圧迫する政策を断続的に出さざるを得ないかもしれません。一方スウェーデンのように集団免疫戦略を全うして感染終了の兆しが見えてきた国では、この感染症自体からの一次ストレスは減る可能性が高いです。しかし周辺国が当該国との人の出入りを抑制するなど経済活動に関してストレスフリーになるわけでない事にも注意が必要です。

 結局、何であれ現段階では未だ断定的な評価をすることを控え、予断を持たずに長期的な観点からの検証を続けるべき時期だと考えます。

 

【文責:田村和広】

 

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