情報検証研究所のブログ

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【報道の情報伝達と社会的制裁】 ~個別感染ケース報道と社会的制裁~

「感染経路を追跡して、クラスターを把握して潰す」

これが日本の第一波収束の要因と考えられておりますが、報道によれば、感染者が再度増加している現在、感染経路不明の割合が上昇しているということです。

例えばフジテレビ系(FNN)7/28(火) の報道では、
“ 東京の感染者 新たに131人 40代男性の7割が“経路不明”
直近1週間の中高年の感染者うち、40代の男性のおよそ7割が、感染経路がわかっていない。感染者全体でも、女性よりも男性の方が感染経路をたどれないケースが多く、保健所の聞き取りに対して行動歴を言わないなど、調査に協力しない男性も見られるという。”
( 引用:https://news.yahoo.co.jp/articles/f332879e8249577c784ffeef3736ce79f8992aee


(太字は筆者)
このように、男性で行動歴を秘匿するなどの傾向があるようです。一体なぜでしょうか。

 

◆ 東京都の接触歴不明率推移


東京都の開示情報から、接触歴不明率の7日移動平均をグラフにしました(グラフ1)。7月に入り不明率が一本調子で上昇し、7月中旬にはとうとう50%を超え、不明の割合が多くなりました。
※ グラフ1のデータは東京都の開示データを、筆者が集計した。

 

f:id:johokensho:20200729114002j:plain



  

◆ 報道による社会的制裁

 

不明率の上昇は、「夜の街」で感染が多いなどの報道や、感染者の行動履歴を暗に非難するような、あるいは非難を誘発するような報道が招いた要素もあると考えます。なぜならそのような報道には強い社会的制裁効果があり、感染者はこれを恐れるからです。個人名や住所をさらされなくても、実際に感染した方とその周辺では、タイミングと概要で容易に個人が特定され得る内容であり、しかも「医療者の自覚がない」「警官としての綱紀が緩んでいないか」など、不当な社会的な非難をあびてしまうことは容易に想像できます。
もちろん、この見方は一面的過ぎ、これだけでは因果関係ではなく相関関係がありそうだと言えるだけです。件数が増加したので保健所機能が十分に発揮されていない等、他の要因の可能性も考慮しなくてはなりません。

 

◆ 正直に申告するのを躊躇う心

 

とはいえ、このような社会的制裁が予想される場合、正直に申告するメリットよりも制裁を受けるデメリットが圧倒的に大きくなり、やましいと感じる行動履歴は隠すことになるのも自然です。職場で個人の恥ずかしい行動が晒されたり、家庭内不和の要因となったりするのは大変大きなデメリットであることに間違いありません。
 

◆ 情報開示と個人情報保護とのせめぎ合い

 

情報開示と個人情報保護の程よいバランスがどこにあるのかは、明快な答えが得られにくい問題です。例えば大阪に比べ東京都は開示に慎重であり、なかなか情報の活用がしにくいのは事実です。しかし、過度に晒せば感染者の不利益も増加することでしょう。これについては私も答えがありません。
 
(おわり)


(以下参考記事)

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“新型コロナ 青森の20代男性警官感染 派遣型風俗女性と濃厚接触
7/17(金)  産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/db333fba68b442430416e4efd0a28ecac8ff2c5d

“ 青森市は16日、市内に住む20代の男性警察官が新型コロナウイルスに感染したと発表した。県内での感染確認は31人となった。市によると、男性は10日に感染が確認された派遣型性風俗業の20代女性の濃厚接触者で、客とみられる。15日夜に発熱や味覚異常などの症状が出た。
県警によると、地域住民と接触する機会はないという。9日以降、本部での勤務のほか十和田署に出張しており、県警は接触した職場の同僚22人を自宅待機とした。
市はこの20代女性と濃厚接触があれば保健所に連絡するよう呼び掛けていたが、男性は申告していなかった。県警は「早期に申告すべきだった。感染防止策を徹底する」とコメントした。”


“【新型コロナ】新宿で5回観劇の看護師が感染 川崎、市立小教諭の感染も新たに判明”
7/14(火) カナロコ by 神奈川新聞:

https://news.yahoo.co.jp/articles/0d2d1b8a562ce4dfe4fb7932794643ce357b939f

“ 新型コロナウイルス感染症を巡り、川崎市は14日、市立川崎病院で新生児集中治療室(NICU)と新生児治療回復室(GCU)に勤務する非常勤で40代の女性看護師が感染した、と発表した。集団感染が起きた東京・新宿の劇場で上演された舞台を観劇。無症状だったが、遺伝子検査を受け、陽性と判明した。市は2室の新規入院の受け入れを、14日から2週間程度、中止する。
市病院局によると、2室に現在入院している新生児8人と職員18人に遺伝子検査を実施した結果、新生児全員と職員6人は陰性と分かった。既に退院した新生児3人と職員15人は15日に検査を受ける予定。
看護師は1日から5日までに計5回、観劇。2、3、6、8、9日と、12~13日朝に2室の夜勤を担当し、マスクを着用していたという。”


“<新型コロナ>クラスターの店名、さいたま市が原則公表へ 客把握なら公表せず 店の了承なく1店公表まだ”
7/7(火) 埼玉新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/242ef59af3e2e5be2468c1e17d1c961eebe46bf2
“埼玉県さいたま市は6日、商店街における新型コロナウイルス感染症対策連絡会議を大宮区役所で開いた。大宮区の接待を伴う飲食店で新型コロナウイルスクラスター(感染者集団)が発生していることから、感染予防対策や情報共有を行うため初めて実施された。清水勇人市長は会議後、「風評被害を受ける」と地元商店街から要望を受けたとして、クラスター発生の店舗名を原則公表すると明らかにした。”

 

“<新型コロナ>さいたまのキャバクラでクラスターか、接客の女性従業員5人が感染 症状ある者、ほかに5人”
6/28(日) 埼玉新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/8f51989755d0e11d4006dc073fab776cf39939b6

“埼玉県のさいたま市は27日、同市大宮区の接客を伴う飲食店(キャバクラ)の接客の女性従業員5人が感染したと発表した。市は「クラスター(感染者集団)が発生した可能性は極めて高い」としている。
感染が確認されたのは、さいたま市内の20代女性4人と、都内に住む20代女性。ほかに症状のある者が5人ほどいるという。
都内の20代女性が21日から感染の症状が見られ、26日に陽性が判明。店関係者を調べたところ、ほかに4人の感染が明らかになった。
店の従業員は約70人(接客従業員50人、店員20人)で、市は濃厚接触者としてPCR検査を進めていく。一方、19日以降に来店した客は濃厚接触者の可能性があるが、来客者は把握できていないという。店は26日まで営業していた。市保健所は客に連絡を呼び掛けている。”

 

 

【文責:田村和広】

 

 


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