【政策点検:現実に直面しPCR検査を絞った沖縄県】 ~「無症状者まで積極的にPCR検査」は非現実的~
沖縄県では7月以降、COVID-19の新規感染者数が1,037名(※ 8/10知事コメントより)にのぼるなど、急増しております。同県はこの事態を受けて7月31日に緊急事態宣言(※)を発出し、8月1日から8月15日までの約2週間を対象期間として外出自粛などの対応を行っております。
◆ “現在、病床数が逼迫している”
これは、8月7日の沖縄県知事コメント(※)にある認識です。沖縄県では、軽症者用のホテル等療養施設の確保が不十分であったことから、軽症者も含めて病院で受け入れる事態となり病床の逼迫を加速することになりました。
“ 現在、県内における感染拡大によりPCR検査の依頼が増加していることから、結果的に無症状者、それらに関連する濃厚接触者など、比較的リスクの低い方も急増し、各医療機関や保健所ではその対応に追われています。現在の状況が続くと各医療機関の機能が停止し、重症者に対する治療も困難になることが懸念されています。
5 このため当面の緊急的な措置として、県専門家会議の意見も踏まえ、医療資源を重症者に集中させるため、PCR検査を推奨する対象者を集中化させていく必要があると考えています。(※8/7知事コメントより引用。太字は筆者)”
“濃厚接触があり症状がない場合にPCR検査を実施する対象は「医療・介護従事者等、基礎疾患を有する者*、65歳以上の者。(*基礎疾患を有する者とは、糖尿病、心不全、呼吸器疾患のある方、透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方、肥満、妊婦等)」(令和2年8月7日沖縄県新型コロナウイルス感染症対策本部「PCR検査の対象者の考え方」より引用※)“
つまり、これまでは陽性者の濃厚接触者はPCR検査対象者になっておりましたが、今後は「65歳未満の健康で医療・介護に従事していない無症状者については、濃厚接触者といえども即PCR検査の対象とするわけではない」ということでしょう。
検査体制は「政策」であり、重症者の治療は「医療」です。
つまり、この沖縄県で起きている現象は、「政策を誤ると医療に悪影響を与える」ということの実例ではないでしょうか。
◆ 政策見直しの時期ではないか
検査と受入体制の実務と法令整備
検査と受入体制の実務と法令整備
具体的には次の2点について、現状のままでいいのか、現実に照らして再検討すべきと考えております。
検討点1:PCR検査と陽性者受入体制のバランス
検討点2:指定感染症(二類相当)
以下、これら2点について詳述します。
◆ 検討点1:PCR検査と陽性者受入体制のバランス
沖縄県では、大量に検査を実施した結果、陽性者が許容量を超えて医療機関に過大な負荷がかかる状況になりました。これは、検査体制に対して、検査の結果発見した軽症・無症状者を待機させる施設の確保数が少なかったために起きた事象です。非難の意図はありませんが、沖縄の施策はいわゆる泥縄だったといえるでしょう。
他県の状況はどうでしょうか。
○ 5月15日 瀬戸保健所豊明保健分室に開設
○ 今後、県内各地域において状況に応じた増設を検討中
(以上、愛知県「新型コロナウイルス感染拡大予防対策指針※」(5月26日)より抜粋)”
愛知県では、5月1日時点で300件だった検査能力を10月末に1,963件まで6倍以上に拡充する予定としております。
全都道府県を調査・比較していないので慎重に考えるべきではありますが、沖縄県に加え愛知県のこの方針を知ると、PCR検査の拡充が、本来“掘り起こすべきではなかった無症状陽性者”までも発見し、「かえって、医療の逼迫状況を惹起している」可能性さえ感じる(個人的印象)状況です。
はたして愛知県では、検査拡充に相応な宿泊施設の確保も十分に行われているのでしょうか。
全国の状況はどうでしょうか。
国内における新型コロナウイルスに係るPCR検査の1日あたりの最大能力は現在52,956件/日(8月10日時点) であり、これは6月15日(:確認できる最大能力の日々公表開始)時点の28,254件/日からは2倍近い規模となりました。しかし、宿泊施設などの確保状況がこれに連動して増加しているのかどうか、全国の状況は不明です。行政の能力を考慮すれば基本的には信頼しておりますが、沖縄県で起きている残念な事例を見ると、やはり検証の必要性を感じます。
「検証1:PCR検査と陽性者受入体制のバランス」のまとめ
PCR検査の拡充は感染症対策として有効ですが、「検査能力に応じた陽性者の受入態勢の充実」がその前提条件となります。各都道府県は、このバランスにも配慮が欠かせません。また、受入態勢を顧みないPCR拡充の主張は、逆に医療現場の逼迫を招く可能性さえあります。
◆ 検討点2:指定感染症(二類相当)
日本政府は、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)について、令和2年1月28日の「閣議及び閣僚懇談会」において「新型コロナウイルス感染症を指定感染症(注1)として定める等の政令」を閣議決定(※)しました。
これを受けて、COVID-19は指定感染症(の2類相当)となりました。
感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、感染力、罹患した場合の重症度や致死率などに応じて感染症を1類~5類、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症に分類します。指定感染症は、これまで感染症法に指定されていない感染症のうち、緊急で患者の行動を制限することが必要な場合に、一定期間に措置を行えるようになります。通常は1年間有効で、必要に応じてさらに1年延長して2年で、その後も必要であれば1類~5類のうちのいずれかに指定されます。これまでに指定感染症になった感染症は、鳥インフルエンザ、2002年11月に中国南部の広東省で発生した重症急性呼吸器症候群(SARS:Severe Acute Respiratory Syndrome)や2012年9月以降にアラビア半島諸国を中心に発生した中東呼吸器症候群(MERS:Middle East Respiratory Syndrome)など4例あります。
指定感染症(2類相当)となったので、PCR検査陽性者は「入院の勧告・措置」がとられることとなりました。(2/1より。「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令等の一部改正について(案)※」参照)
この陽性者の取り扱いは、法令が現状のままならば、少なくとも来年の1月末頃までは継続されます(正確には「施行の日以後同日から起算して一年を経過する日までの期間」)。
わが国では、ここまで半年以上に渡りCOVID-19に対応しており、未だ不明点も多いとはいえ、知見はかなり蓄積され、現実的に必要な対応はかなり判明しました。今後ウイルスの病原性が変異する可能性もありますが、これまでの状況から合理的に考えるならば、この検査陽性者に対する一律の「入院の勧告・措置」は見直しが必要なのではないでしょうか。この指定感染症(2類相当)に附帯するこの措置は、自治体が柔軟に対応する上で足枷になり得るからです。
「検討点2:指定感染症(二類相当)」のまとめ
”PCR検査陽性者に対する「入院の勧告・措置」については、年齢や症状などの実情に応じて柔軟な取り扱いを可能にするような法令の改正または追加を検討すべきではないでしょうか。少なくとも、現状のままで良いかどうか、ここまでの知見のアップデートを行い再検証はすべきでしょう”
日本では、秋から冬にかけて気候の変化に伴い、インフルエンザや風邪などの感染の広がりと重症化の度合いが変化する傾向があるそうです(秋冬に流行し春夏に沈静化)。仮にCOVID-19についても同様の傾向があると仮定した場合、秋から冬にかけて感染の再拡大が起きると、重症者と死亡者が従来よりも増加する事態も考えられます。
従って、せめて現在までに起きている知見を整理して、緊急避難として実施した政策のうち、逆効果が予想されるようなものは修正して頂きたいと考えます。
◆ 死亡者数が少ない一因は医療介護の体制
病床数は物理的に増やすことができても、医療・介護に従事する専門スタッフは一朝一夕には増やせません。そして、これまで日本におけるCOVID-19の死亡者数が比較的少ないのは、この従事者の貢献に負うところも大きいと考えられます。医療・介護施設への支援策は充実しているのでしょうか。これらの点についての深い認識に基づく政策立案を期待致します。
(おわり)
(参照サイト)
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※7/31沖縄県「緊急事態宣言」
※ 8/10沖縄県知事コメント:
https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/chijiko/kohokoryu/koho/2020_new_korona_virs.html
※ 沖縄県の「PCR検査の対象者の考え方」
https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/chijiko/koho/corona/documents/pcrkensataisyou.pdf
※ 官報(令和2年1月28日)