情報検証研究所のブログ

オンラインサロン「ファクトチェック機関「情報検証研究所」」の活動や検証報告を公開します。

「PCR検査を倍にすれば、接触5割減でも収束可能」はどこがおかしいか?

 朝日新聞テレビ朝日の情報番組で、「PCR検査を倍にすれば、接触5割減でも14日で収束」「4倍にすれば接触制限なしで8日で収束」(これに対し、接触8割減の場合は23日)との論文が報じられている。

digital.asahi.com

 

 まず、もとになっている論文は、感染予測モデルの改良可能性を提案するものだ。感染症以外の分野の研究者からも問題提起がなされ、こうした議論が活性化するのは素晴らしいことだと思う。

 しかし、これが現実に適用できる計算であるかのようにメディアが報じるのは、大いに問題だ。

 現実に引きうつし、4月の緊急事態宣言の際、「接触8割減」に替えて「検査2倍、接触5割減」をとっていたと考えてみよう。報道だけをみれば、「論文によると、もっと早く収束したはず」と思う人も多いだろうが、そんなことはあり得ない。

 短期収束のロジックは、記事でも説明されるとおり、検査をもっとやれば、感染者を多く見つけだして隔離でき、その分だけ市中感染者が減るからだ。4月初旬以降、一日の検査数は概ね5000~9000件、陽性判定者数は概ね100~700人。仮に検査を2倍にして、隔離する人の数が日本全体で数百人増えたからといって、日本国民全員の接触制限3割分を上回る効果が生じるわけがない。

 こんなおかしな結論になる理由は、実は論文に書いてある。全人口数=未感染者数と近似できる「感染初期」の前提だからだ。市中感染者はまだごく少ないので、現状の検査数を2~4倍にしただけで、市中感染者が一気に減っていく計算だ。これは、4月以降の日本には全く当てはまらない。

 現実の日本でどれぐらい市中感染者がいるかは不明だが、参考になるのは、慶応大学病院での無症状者PCR検査(4月中旬で6%)や、大阪市・神戸市の抗体検査結果(それぞれ1%、3%)だ。これらをみれば、感染のピーク時には無症状の市中感染者が相当規模で存在した可能性が高い。市中感染者が仮に総人口の1%として120万人。これを片っ端から検査で見つけて早期に隔離しようとすれば、陽性率10%なら1000万件以上の検査が必要で、すぐできるわけがない。

 将来に向けて新たな波を想定し、「感染初期」だったら適用できるかというと、これも課題が多い。例えば、「少しでも疑いがあれば検査」として、隔離する人の数がどれだけ増えるのか。これまでも、感染の疑いのある人は、受診前であっても外出を避けるように求められている。それでも現実には、発熱があっても出勤する人、公共交通機関に乗る人が少なからずいる。検査を2~4倍増やすことで、こうした人がどれだけ減り、「隔離」の増加につながるのかはわからない。 

 念のためながら、論文に問題があると言っているのではない。「感染初期」との前提を省くなど、誤解を招く報道をしているメディアに問題がある。

 

【文責:原英史、監修:高橋洋一氏】

 

 

<メンバー募集中!>

どういう議論を元に検証記事が出来あがっているのか?!
”議論の内容を知りたい!”という方、”議論に参加してみたい!”という方は、
ぜひご入会下さい!

lounge.dmm.com