情報検証研究所のブログ

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緊急事態宣言の「ゴール」はどう変わったか?

コロナ対策の専門家会議メンバーの方々には、本当に頭が下がる。昼夜を問わず対策にあたり、記者会見もこなし、そのうえ最近は評論家らからの批判も多い。私自身、政府の仕事に民間人として関わって、マスコミ等から的外れな批判を受けた経験があるが、誠に割に合わない役回りだと思う。

 

最大限の敬意を表したうえで、それでも申し上げたいのは、政府と専門家会議で、対策の「ゴール」と「達成状況」を明確にしていただきたいことだ。

 

これを明確にせず「8割削減」を延長しても、国民はどこに向かって走らされているのかわからない。不満が高まれば、対策にもマイナスになる。

 

そもそも、「8割削減」のゴールは何だったのか。

 

出発点にさかのぼると、4月7日に緊急事態宣言を発出した際、安倍首相は会見でこう述べていた。

 

「(東京都の感染者数は、)このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。しかし、(中略)接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。そうすれば、爆発的な感染者の増加を回避できるだけでなく、クラスター対策による封じ込めの可能性も出てくると考えます。その効果を見極める期間も含め、ゴールデンウイークが終わる5月6日までの1か月に限定して、7割から8割削減を目指し、外出自粛をお願いいたします。」

 

つまり、当初のゴールは、

◆4月21日 東京都などの新規感染者数ピークアウト、減少へ

◆5月6日 効果を見極めたうえで解除

である。

 

これに対し現実はどうなったかというと、5月1日専門家会議資料によれば、4月9日頃には東京都の新規感染者数はピークアウト(確定日ベース)。もちろん、5月1・2日は再び感染者数が150人を超えるなどデータの変動もあるから経過観察は必要だが、少なくともここまでのデータでみる限り、ゴールは大幅前倒しで達成済みだった。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000627254.pdf

 

ところが、5月1日専門家会議では結論として、ゴールは未達成とされた。

・東京都の新規感染者数はたしかに減少傾向だが、それ以前の上昇の傾きと比べて緩やか。全国ベースではさらに緩やかで、「3月中旬前後の水準」まで下がっていない、

・さらに、解除するかどうかは、「新規感染者数等の水準」「必要なPCR検査が迅速にできているか」「患者増大を見据えた医療提供体制が構築されているか」の総合判断、

との説明がなされた。

 

つまり、ここにきてゴールは大幅に変わり、

◆新規感染者数のピークアウトでは足りず、「3月中旬前後の水準」(全国で概ね20-50人程度)まで低下

◆加えて、PCR検査体制と医療提供体制の状況も総合判断して、解除

となったわけだ。

 

ゴールが変わること自体は、悪いことではないと思う。未曾有の事態で日々状況は変化する。いちど設定したゴールに固執することのほうが危険だ。

 

だが、「8割削減」要請に応え、不便・不自由、事業の苦境に耐えてきた人たちからすれば、ここにきて「検査体制や医療提供体制がまだ不十分だから・・・」などといわれるのは、理不尽な話だ。

 

ここは、ゴールを変更するのであれば、安倍首相が責任をもって、4日に予定される宣言延長の際に、しっかり国民に説明しないといけない。

 

あわせて、達成状況もさらに整理して説明してほしい。

 

5月1日専門家会議では、東京都の状況以上に、全国ベースの新規感染者数の下落が緩やかであること(4月10日時点の実効再生産数は、東京0.5に比し、全国は0.7)が指摘された。だが、4月7日の緊急事態宣言は東京都など7都府県が対象で、全国対象に広げたのは16日だ。その効果がデータに反映されるのは2週間後以降とすれば、1日段階での評価は時期尚早でなかったかと思う。

 

国民に更なる協力を求めるならば、これまでどれだけの成果につながったのか、そのうえで、残りどこまでなのか、明確に示すことが不可欠だ。

 

【文責:原英史】

 

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