情報検証研究所のブログ

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【継続検証:産経新聞FNN世論調査不正の影響】

 6月19日、産経新聞とFNNの合同世論調査において不正があったことが発表されました。言論誌「正論」も影響を受けてしまいました。少し考えました。
 未だ記憶に新しい事件ですが、概要を簡単に記します。


◆ 不正調査の概要

報道(※)によれば、概要は次の通り。
期間:2019年5月~20年5月
回数:不正は各回で100件以上、14回分で計約2500件
主体:調査業務再委託先である日本テレネットの管理職社員
内容:内閣支持率や新型コロナをめぐる対策など、政府の対応の評価などを尋ねるもの
不正:実際に得た回答の居住地や年齢などを変える方法で架空の回答を作成
理由:「派遣電話オペレーターの確保困難」「利益向上」等
対応:両社はこの世論調査結果に基づく放送と記事を全て取り消し
今後:調査・検証を行い、しかるべき処置を行う(フジテレビ)
https://www.asahi.com/articles/ASN6M6FTKN6MUCVL00Z.html


◆ 正論8月号上にもコメント

 正論8月号(7月1日発売)にも巻末に告知があり、既刊号に掲載された一部論考にも影響があったことに対する、読者と論者へのお詫びが掲載されていました。
早速手元の2020年6月号(4月中に書かれた記事と推測)を見ると、次のような論考がありました。少し長いのですが、検証の題材として一部引用致します。

 

===(引用ここから)===


「安倍首相よ 自信を持って歩め(ジャーナリスト櫻井よしこ氏)」

“そうした中、緊急事態宣言発出を受けて行われた世論調査で極めて興味深い結果が示された。調査で注目すべき問いは二点だ。第一に緊急事態宣言の発出を評価するか、しないか、第二に発出の時期は適正だったか否かである。
第一の問いで、緊急事態宣言の発出を「評価する」と答えた人は、産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)の調査で六五・三%、共同通信が七五・一%、読売新聞八三%、毎日新聞七二%などだった。
左右のメディアでほぼ同じ傾向が出た。圧倒的多数が政府の緊急事態宣言発出を強く願っていたのが明らかだ。
第二の発出の時期については「遅すぎた」が産経・FNNで八二・九%、共同通信で八〇・四%、読売八一%、毎日七〇%だった。
またもや左右のメディアでほぼ同じ結果である。圧倒的多数が緊急事態宣言の発出は遅かった、もっと早く出すべきだったと考えている。驚くべき結果ではないか。
国民は本音では、「安倍首相よ、今は危機だ、国難だ。指導者として強いリーダーシップを発揮してくれ、国民全員のためだ。私権の制限も受け入れる。もっと強くやってくれ」と、考えていると言ってよいだろう。”
(「正論6月号」P51-59より引用)

===(引用ここまで)===

◆ 偏りの有無は判断できない

 ここでは論考の主張内容ではなく、当該世論調査の影響を考えます。
 普段はどちらかと言えば共同や毎日がやや「反安倍政権」的な傾向、産経FNNや読売には逆に「親安倍政権」的な傾向を私は感じております。(個人的印象)
しかし櫻井氏が引用した部分では、第一の質問である「(政権による)緊急事態宣言への評価」ではむしろ共同の評価がやや高くて七五・一%、逆に産経FNNが一番低くて六五・三%となっており、特に「政権を応援」する意図での偏向は感じられません。それよりも人為的な操作が入ったために恣意的に「バランスのとれた」数値になっていないかどうかが疑われるマイルドさです。

 第二の質問も同様に偏りは感じられません。
 他の号の記事も(全てではありませんが)確認した範囲では、特に恣意的な改ざんやその悪影響を受けたと感じる論考はありませんでした。
 恐らく、不正行為に及んだのは、コストや手間を圧縮することが第一の要因で、政治運動的な意図はなかったのではないかと予想致します。ただし、判断材料が不足していますので、確信の度合いは高くありません。
 
◆ 現時点、正論の姿勢を評価

 世論調査自体の具体的な不正内容の影響が未発表である現時点では、「顕著な影響があった」とも「なかった」とも判断できないもどかしさは残ります。曖昧さが残る中で、暫定的ではありますが、自陣営の不適切な行為について潔く影響を認めたこと、および過去掲載論考について読者と論者に対してお詫びを表明したことは、信頼に値します。誰だって無謬ではいられません。知らないふりをしたり、言い訳したりする新聞やテレビが多い中、この姿勢は貴重です。
 これは一読者としての目線ですが、今後、調査が進展した際、どの論考のどの部分に影響があったかについて自己調査を行い、一覧できる形で掲載されたら信頼度は以前よりも上がるでしょう。(個人的・情緒的な予想)
 孔子も「過ちて改めざる、是れを過ちと謂う。」(「論語」衛霊公)と言っていました。

◆ 本件の背景は、時代の変化ではないか

「オペレーターを雇い、大量に電話をかけて、標本としての信頼性が十分に保てる量の回答を得る。」このような形での世論調査には、コストがかかります。一方インターネットメディアの発展に伴い、既存メディアの営業収入は長期にわたり低下傾向にあります。その中で、従来同様に潤沢なコストがかけられるのはNHKくらいではないでしょうか。
 つまり、コスト圧縮の努力は世論調査にも同様に求められ、その結果として、もはやコストがかかる「厳粛な扱い」を保てなくなってきたのではないでしょうか。同一手法による調査の継続は本当に大切ですが、営利企業である以上、社会変化には対応せざるを得ません。
 「低コストで、偏りが少なく、連続性が保てる手法での世論調査を開発すること」
これはメディア企業に対する時代の要請かもしれません。

(おわり)


【文責:田村和広】

 

 


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