情報検証研究所のブログ

オンラインサロン「ファクトチェック機関「情報検証研究所」」の活動や検証報告を公開します。

【判断が難しい緊急事態宣言の継続・解除問題】 ~今回の「意思決定」を主導するのは和魂か洋才か~

「緊急事態宣言(以下「宣言」)は、予定通り解除すべきか否か」、この判断の基礎となるCOVID-19の現在の流行状況は、「宣言発出」当初期待されたほどでは無いようです。
  
 
◆ 今回の緊急事態宣言解除の判断は難しい
緊急事態宣言解除予定の2月7日は、本日(1月28日)から10日後に迫りました。宣言発出日(1月7日)における東京都の陽性者数は2,447人、全国では7,568人(ともにNHKサイトによる)でしたが、直近(27日)における東京都の陽性者数は973人、全国では3,970人となり、東京で60%減少、全国で見ても48%の減少となりました。
一方、「医療逼迫」の度合いに直結する指標としては重症者数の方がより直接的には重要ですが、グラフ1で見る限り、急上昇にはブレーキがかかってきましたが、依然として1,000人前後という高水準を維持しており、逼迫度が大きく改善されたとは考えにくい状況です。新規陽性者数とは違い、重症者数は急激には減少しないことが過去の経験から判明しておりますので、例えば「1週間後に半分になる」というような劇的改善は難しいと考えるのが自然です。

f:id:johokensho:20210202231602p:plain

 
これらの事実から、解除すべきか否かの判断は極めて困難なものとなりました。大阪など追加的に「宣言」の対象に加えた地域での減少効果が、重症者などまで反映されるのは(尾身会長が指摘する通り)今週末から来週(=2月初旬)にかけてであり、2月7日に解除すべきかどうかの判断は、一層難しいものとなるでしょう。
ではその解除要件とはいかなるものでしょうか。
  
 
◆ 解除基準の必要条件は『ステージ3』
報道にもある通り、27日開催の参院予算委員会菅首相と分科会の尾身会長は次のような認識を示しました。
菅総理:「(宣言解除の目安となる)ステージ3に早くもっていきたい」
尾身会長:「宣言の効果が今週末あるいは来週初めに分かる。それが解除の時期に重要な影響を及ぼす」(以上2つのコメントは時事の報道より、太字は筆者)
  
また尾身会長は、フジテレビの単独インタビューで次のようなコメントもしております。
“(緊急事態宣言の解除の条件について)「(感染者)数よりもっと大事なことは、医療の負荷がどうかということ。医療がある程度、負荷がとれていることが1点2点目は、ただある数値に達したというだけではなく、改善傾向があるということ。(感染者数が)下がっているという変化。3つ目は、なるべく『ステージ2』まで行ける見通しがあるということ」(FNNの報道より、太字は筆者)”
詳細に比較すると政府と分科会の間で解除要件に差異がありますが、両者の“最大公約数” を求めるならば、
「『ステージ3』になるかどうか」
が一つの大きな必要条件ということでしょう。
  
分科会(尾身会長)としては“感染者数に改善(減少)傾向がある”ということと、“『ステージ2』まで行ける見通し”を付加しておりますが、それらが「現実にどこまで実現できるか」という面と、「政治がどこまでで妥協するか」という面の複数の要因を総合しての判断となるでしょう。
  
 
◆ 「宣言」には効果があるのか
「宣言」の陽性者数抑制効果の有無、つまり因果関係については慎重な検証を要しますが、少なくとも相関関係は認められます(グラフ2参照)。移動平均でトレンドを見ると、ほぼ「宣言」発出時の水準まで下がってきましたが、「年末年始」要因の反動なのか、真の沈静化に成功しているのかどうかは未だ判別できません。

f:id:johokensho:20210202231626p:plain

しかし、緊急事態に直面した際に、目まぐるしく変化する現実に対応するうえでは、行政の意思決定も科学的確定を待つこと自体がそのリスクを高める可能性があります。そのため「緊急事態」と正式に認定し国内外に宣言している現期間内は、科学的な因果関係が証明される前でも相関関係が確認された段階で、その施策の効力を認めて次の一手の論理的根拠または有力な選択肢の一つとすることには一定の合理性はあります。
 
ただし、この点について「日々の陽性者数報告には意味がない」「推定感染日を考慮すれば宣言前に既に収束に向かっていた」などを理由に「予定通り2月7日に宣言を解除せよ」という主張にも同じ程度の合理性はあり、後日検証できた際には、こちらの主張が正しい可能性も十分あります。
とはいえ、現時点で現実の政治を司る立場で考えてみるならば、仮に「宣言は最早不要となった」と判断して解除した後に感染者が再度増加する事態を招いた場合には、得失比較で失うものの方が大きい可能性があります。従って、非常事態を“戦時”に喩えることをお許しいただけるならば、不確実な情報しか得られず「より少なく錯誤した方が勝利する」“戦場”においては、その選択(“賭け”)は現実的ではないでしょう。
  
◆ 判断自体と同様に「意思決定の論理構成」にも注目
今回の「宣言」延長・解除の判断は難易度が高く、高度な政治的判断が要求されるでしょう。私は、その判定結果同様に、その「意思決定」の論理構成にも注目しております。つまり、「その判断に至る主要な根拠は何なのか」に関心があります。
その理由は、先の大戦において「日本として開戦を決意した意思決定方法の枠組み」や、戦時下における情報収集と願望で歪む認識、そしてそれを基盤とした謎の主観的作戦立案(大本営)など、「日本独自の思考方法」の解明につながると考えるからです。
私達一般人の目に触れる「開戦に至る経緯」や「従来愚行とされてきた作戦立案」の説明には、部分的には得るものがあるにしても、全体としては納得感があまり高くない、信じていいかどうかに疑義を感じる学説が目立ちます。(承認欲求よりも探究心の方が強い研究者もいるはずですが、一般の目に触れにくいのでしょう。)これらのテーマに関して私は、「村八分」などの日本文化の「暗黙知」や「集合知」、特に潜在意識下深くに根差した「大和魂(やまとだま:和魂)」の存在に注目しており、この追い詰められた社会の空気は、「和魂」の正体を赤裸々に描き出してくれるのではないかと思っているからです。
今回の判断経緯の真実に近づくことが出来れば、「謎の日本人像」の解明に資するヒントを得られるのではないかと期待しております。
 
◆ 重視されるのは社会的要請か科学的合理性か
今回の判断に際し、最も考慮されるのが「社会的理由なのか、科学的理由なのか」、言い換えると「和魂(≒社会)か、洋才(≒科学)か」という点に、注目しております。
27日に国会で、蓮舫議員の無礼に対し「失礼ではないか。大いに悩みながら自分なりに努力している(:趣旨)」と反論した菅総理には、「和魂」に傾斜する可能性を少し感じます。
  
(おわり)
 
 

【文責:田村和広】

 


<オンラインサロン「情報検証研究所」メンバー募集中!>
どういう議論を元に検証記事が出来あがっているのか?!
”議論の内容を知りたい!”という方は、ぜひご入会下さい!