情報検証研究所のブログ

オンラインサロン「ファクトチェック機関「情報検証研究所」」の活動や検証報告を公開します。

【日本は医療崩壊を防げるか】 ~独・伊との比較から日本の防衛ラインと緊急事態宣言のタイミングを検証する~

同じ地域で緊密な関係を持つユーロ圏のイタリアとドイツですが、イタリアは“医療崩壊”を起こしたのに対して、ドイツは“医療崩壊”を起こしていません。この差は一体何なのでしょうか。

 

◆なぜイタリアとドイツの明暗が分かれたのか?

結論から述べると、ICUの受け入れ限界を越えたか否かの違いと考えます。

日々報道される感染者の絶対数で見ていると全く差異が解りませんが、「100万人当たり」に換算して比較すれば、一目瞭然となります。グラフ「死亡者とICU数」をご覧ください。

 

医療崩壊”を起こしたヨーロッパ各国は、グラフの右下に、現在崩壊していないグループは左に位置しております。横軸は死亡者数、縦軸はICU数となっております。(それぞれ100万人当たり)

100万人当たりという比率で冷静に捉えると、アメリカもドイツも崩壊していないことが判ります。絶対数だけを追っていても見えない事実です。

 

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次に、数表をご覧ください。

 

ドイツとアメリカは、百万人当たり300前後のICU保有しており、100前後の他国のおよそ3倍のICU数を保有しております。これが、ドイツとイタリアの明暗を分けた最大の差異であろうと私は考えます(この差異原因の評価はあくあまでも個人の主観です)。

日本は73しかありません。人口の比率で比較すると、日本は実は、イタリアの125よりも約42%少ない状況です。ICUに関しては数が豊富とは言えない国です。(先日、日本集中治療医学会もそのような趣旨の発表をしていました。)

 

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◆ところで“医療崩壊”とはどういうことか

ここで“医療崩壊”という曖昧な言葉を明確に定義します。

医療崩壊の定義:

「患者が医学的に必要な措置が生じた際に入院できない、または医師による適切な診断・治療を受けられないこと」

つまり、本稿では新型コロナウィルス感染による医療崩壊とは具体的には、

「重症者(※)数 > ICU受入可能数」となり、「適切な治療を受けられない患者が発生する状態」

とします。

※「重症者」…厚労省が日々配信する資料の「人工呼吸器又は集中治療室での治療を要する患者」とする。

 

◆日本が医療崩壊に至らない限界感染者数はどれくらいか

厚労省データによれば、ドイツでは、4/13現在127,000人の感染者が確認されています。それほど多数の感染者を出しても医療崩壊していないドイツを、本稿においては「実証された限界ライン」と捉えます。もちろん、各国の条件は同一ではないので、目安に過ぎません。感染者の2%が重症化すると仮定すると、ドイツでは100万人あたり重症者は約31人となります。この重症者数はICU数292(100万人当たり)の10%を超えておりますが、現在でも持ちこたえています。

そこで、仮定に基づきますが、ドイツの事例から「少なくともICU数の10%までは重症者の受け入れキャパシティがある」という現状から日本の限界ラインを逆算します。

結論として日本では、「約46,000人」が医療崩壊を起こさない感染者数限度と算定されます。(4/13現在日本の確認感染者数は7,255人)

 

◆イタリアは、移動禁止措置が遅れ防衛ラインを突破された

同じ計算で、イタリアの分岐点は計算上38,000人でした。イタリアが移動禁止措置を出したのは、3月8日で、翌日9日の感染者数は7,985人でした。しかし、イタリアにおいて限界ラインである38,000人を超えたのは3月21日で、措置から12日後であり医療崩壊の回避には間に合いませんでした。

 

◆日本は、政府要請に国民が協力すれば防衛可能

ここから先は日本の今後についての推測になります。

日本政府が緊急事態宣言を出したのは、4月7日で、4月8日の感染者数は4,257人でした。

自粛の効果が出るのは2週間後の4月21日以降と考えられます。イタリアと同じ増加速度で日本の感染者数が増えるとするならば、計算上日本の感染者数が限界ラインである46,000人に到達するのは4月22日となります。

つまり、机上計算に過ぎませんが、

「ぎりぎり医療崩壊を防ぐことが可能なタイミングで緊急事態宣言が出された」

ことを裏付ける結果となりました。

様々な不都合が発生している各種自粛要請ですが、国民が冷静に取り組めば、日本はイタリアにならずにドイツになれることをこの計算結果は示しております。

しかし、この前提は必要条件であり十分条件ではありません。

つまり、医療現場からは既に飽和のサインも出ておりその場合、局地的には医療崩壊状態が出現してもおかしくありません。東京都で「軽症者はホテルに移動させる」などの措置に踏み切ったことはそれを裏付ける動きです。パニックを喚起しないように慎重に広報されていますが、許容限界を超えないで済むかどうかは、綱渡りに近い状況とも推測されます。この机上計算を見ることで安心・油断するのは早計です。

 

◆日本の運命を左右するもの

日本が医療崩壊を防げるかどうかは、我々国民の努力にかかっております。油断すれば惨事を招きます。これからも人との接触を最小化して、日々手を洗い続けることが鍵になります。

 

※ご注意…あくまでも過去の他国の実績値を、シンプルに適用した机上計算に過ぎません。社会制度他の要素は一切考慮しておりません。これをどう考えるかは各自のご判断となりますのでお取り扱いにはご注意ください。短絡的に要約したり切り取っての転用などはお勧め致しません。

 

[データ出典]

WHO:Coronavirus disease(COVID-2019) situation reports

ジョンズ・ ホプキンス大学 新型コロナウイルス感染症の拡散状況マップ等

経済産業省「重点国の基礎データ比較 (日米欧との比較)」

The Countries With The Most Critical Care Beds Per Capita 

https://www.statista.com/chart/21105/number-of-critical-care-beds-per-100000-inhabitants/?fbclid=IwAR2La1FpTr_n2kyD93RnkeP9xZxXCkDduZ8YuUCUqNLZkyDO2Q7n0xo08vM

厚生労働省、報道発表資料 

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html

イタリア プレスリリース

http://www.protezionecivile.gov.it/media-comunicazione/comunicati-stampa?fbclid=IwAR0gENE5ID7VD3RYUBHu7Ocldkq9W25cCfyhbiizsPfmM02F7Jwv90yTUHo

 

【文責:田村和広】

 

 

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