情報検証研究所のブログ

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【「国家の怠慢」の“はじめに”でハッとしたこと】 ~「試験の解き方」≒「問題解決の思考様式」~

受験生を指導していると、いつも罪悪感に苛まれることがあります。その一つが「試験問題の解き方(:解く順番についての戦術)」です。
「国家の怠慢」の“はじめに”で高橋洋一氏は、次のように記述しております。
“(高橋氏)あるとき、試験の解き方が話題になって、難しい問題を早く識別し、それを避けてやさしいものから解答し、後で時間が余れば難しい問題に取りかかると聞いた。
はっきりいって、私の流儀と真逆だった。数学は独習で中学時代に大学程度をマスターしていたので、解けない問題はなかった。(前掲書P5~6“はじめに”より抜粋)”
そうなのです。
これは日本の問題点、限界点を象徴する大問題なのです。
私自身は、数学の才能がない側の人間です。(人様から“ボンクラ”呼ばわりされることが多いです。)指導者と友人に恵まれ大学には進学できましたが、数学は制限時間内では大問6題中3問完答がやっとでした。従って150分の試験では、次のような戦術で合格期待値の最大化を図りました。
 
◆ 合格期待値最大化の戦術
 
選択と集中または優先順位付け」:
「(最初の10分で)解けそうな易問を見つけ、時間はそこに集中して手堅く合格得点を稼ぐ。難問は時間を浪費する“地雷”としてこれを避け、時間が余れば途中点を稼いで駄目を押す。満点は要らない。」・・・(*)
今、多くの受験生はこの戦術で入試を突破していると推測しております。各自治体で最優秀公立高校に進学する中学生の多くも、だいたいこの戦術を徹底しております(もちろんそうでない方も多くいます)。高橋洋一氏や原英史氏が進んだ東京大学の入試では、毎年3,000人超が合格(入学)しますが、高橋洋一氏のような戦術で入試に取り組める人は恐らく100人といないでしょう。(個人的印象)
 
◆ この戦術が孕む問題
 
ところが、日本の学生には突出した数学センスの持ち主も多く存在します。その上、何らかのセンスが際立つ人の中には、いい意味で「バランスの悪い」人も結構多い印象があります。しかし、国公立の高校や大学入試においては、全科目において“恙ない”得点を稼ぐことが重要です。科目ごとのバラつきが大きい人は、英(外)数国理社全教科の得点総合では上位に入れず、現在の選考方法の枠組みでは埋もれて行きます。特に高校入試においては、試験で高得点が取れても、「内申点」という「能力以外の要素」が色濃く反映される評定も高くなければ人気の学校には合格できません。
そのため、受験生指導においても、圧倒的多数を占める“普通の人”が希望の学校に合格するためには、上述のような戦術を取るよう演習を積ませるケースが多いです。これは人格形成期に多大な影響をもたらすことは事実です。そして功罪両面ある思考様式を身に着けさせることになります。
 
◆ この問題解決姿勢が思考様式化すると
 
私は社会に出て30年ほどになりますが、バブル崩壊以来の官僚の不首尾や「朝日新聞サンゴ損傷自作自演事件」以来のメディアの愚行をずっと見てまいりました。その結果「社会を動かしている人々は、“科学的で論理的な思考”を疎かにして、“自分達にとって既知の情緒的な思考の枠組み”に依存した考え方に捉われているのではないだろうか」と感じるようになりました。しかし、それは完全な的外れではないですが、この「国家の怠慢」を読み、少なくとも官僚については、あまり妥当ではなかったことがわかりました。
諸問題が解決されない、または次々と発生する一因には、官僚諸氏の中に、この「手持ちの知見で解ける問題を手堅く解き、未知の難問は解を考えることを放棄する」・・・(**)という思考様式があるのではないかと感じたからです。
つまり、上述(*)のような戦術で試験を通過した「優秀」な官僚にはそもそも、「難問は解を考えることを放棄する」(**)思考様式が染みついているからではないかと感じました。全く新しい、未知の局面において、日本の意思決定が奇妙(明治維新を除く)なのは、エリート官僚に対するこのような評価方法も背景にあるのではないかと思うのです。
 
◆ 大学入試改革と教育改革
 
昨年来立て続けに大学入試改革の主要施策が失敗しましたが、実際に中高生と共に対応を迫られ注視してきた者から見れば当然の帰結であり妥当な判断でした。これを契機に、一度深く、目指すべき国家の有り様を模索し、その大きな背景から大学入試改革や教育改革に着手して頂けないかと切望します。
かつて共通一次試験が導入される際には、導入前から大きな課題(欠陥)を指摘し、問題化することを見破った小室直樹氏がおりました。教育関係者は別格として、今、日本の教育改革で大胆に直球の提言が出来るのは、原英史氏と高橋洋一氏のコンビ(?)ではないかと、個人的には心密かに期待しております。
(おわり)
 
 

【文責:田村和広】

 

 


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