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【読書感想文「国家の怠慢」】 ~平成以来続く「怠慢」の背景が浮き彫りになる暴露本~

8月19日、「国家の怠慢」(新潮新書)を購入し、一気に読了しました。この新書では、かつてエリート官僚として活躍し、現在もメディアや行政改革で大活躍中の高橋洋一氏と原英史氏が「官僚の習性」他を解説しています。元官僚同士の対話なので、小林秀雄並みの難解な文章を覚悟しておりました。しかし、そこは普段からインターネット番組をはじめ一般向けに語り掛けるプロのお二人です。文章自体は普段の易しい語り口そのままで、流れるように対談が進む読みやすい書籍でした。

 


◆ 文章自体は易しいが内容は刺激強め

 


この本は、平成元年から続く日本の低迷(と伸び悩み)について、「行政組織のこんな生態も、日本を停滞させた一因なのですよ」と解き明かしてくれる、“時代の解説書”だと感じました。特に私にとっては、自分の分析が正しかったのかどうかを答え合わせできる“模範解答集”でした。なぜなら「確証の持てなかった想像上の構図」に対して「正解はこれです」と示されることが多かったからです。

 


例えば、あれほど優秀な人材を揃えた大蔵省や通産省がなぜ苦難の時代に日本の指導に失敗し続けているのか、一国民としては大きな謎でした。というのは、よく言われている『接待漬け』『天下り』『縄張り争い』は、きっとメディアが官僚非難のために、針小棒大に膨らましているだけで、国家運営が滞るほどの影響があるとは思えなかったからです。しかしそれらに加えて、『モリカケの事実』『前川喜平氏と佐川宣寿氏』等々、一般人の私達には想像でしかなかった実相までもこの本ではサラッと暴いてしまうのです。

 


◆平易な文体ゆえに読解難易度は高め

 


ただし各章の結論を体系的に自分の知識として吸収するためには、実は読解力を要する文章ではないかと感じました。というのは、対談形式なので平易な口語文で読みやすく、読み進めると大量の情報が入力されるので到底憶えきれません。読み易さに反比例して相当の記憶力と読解力を要する解説書になっております。

 


例えば、「第三章 なぜ役人は行革を嫌がるのか」では、“出向と天下り”“霞が関ビルまで続くタクシーの列”“当局が民間に取り込まれる「規制の虜」”等々、具体的なエピソードが豊富に例示され、官僚の日常と生態が描き出されて行きます。しかし、これを総合する“まとめ”が章末にあるわけではないので、一読するだけでは体系的に吸収するのは大変です。私自身は何度も読み込んで趣旨が理解できました。

 


また、国民民主党森ゆうこ議員の誹謗中傷に対する懲罰問題では、原氏の会見を阻止しようと「〇〇党」までもが妨害行為に及んでいたことなど、実に恐ろしい国会運営の実態も明記されております。これらの事実は、あらためて白日の下に晒されるべき、議会による人権蹂躙といった「議会の堕落」を象徴する出来事でした。

 


ところで著者(論者?)の一人である高橋洋一氏が東大数学科卒ということは、今回初めて知りました。多分、今改めて日本を縛るCOVID-19問題についても、「感染症と経済のトレードオフ」関係なども線形計画法微分方程式などで理解されているのではないでしょうか。多くの方の理解を超越するので表明していないだけだと推測しておりますが、もしそうであれば体系的に解説して頂けたら有難いと思いました。(=極個人的感想)

 


◆ 大人(たいじん)必読の書

 


タイトルの「国家」とは何を指し、「怠慢」とはどういう状況を指しているのでしょうか。本書を読めば、(それがわかり)日本の課題についての理解が深まります。高橋氏は大蔵官僚、原氏は通産官僚というエリートとして、確かに「国家」の一部でした。ですから二人の問題提示は、「国家」が抱える問題についての自己認識に等しいものです。また現役官僚は内部情報の暴露はできませんので、これらは大変貴重な「内部者情報」でもあります。日本が抱える数々の課題について少しでも問題意識を持つ日本の大人(たいじん)にとって、この「国家の怠慢」は必読の一冊と言えるでしょう。新潮新書と著者のお二人には、素晴らしい本をこの世に出して頂き感謝致しております。

 


(おわり)

 

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【文責:田村和広】

 

 


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