情報検証研究所のブログ

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国家公務員法改正の基礎情報と視点

検察庁法改正の「採決見送り」との報道が出ている。まだ不透明だが、可能性は以下の3つだ。


1)法案全体の採決を見送り、次期国会に先送り
2)検察庁法改正だけを切り離して先送りし、国家公務員法改正(公務員全般の定年引上げ)は成立
3)やはり強行採決する

 

 次期国会に先送りされるにせよ、引き続き注視を要する課題だ。以下では、検察庁法改正の陰で全く注目されていない、「公務員の定年引上げ」について、基礎情報と視点を整理しておく。

 

1、前提として、定年制度は今はどうなっているか
 公務員の定年は、国・地方ともに60歳だ。国の場合は国家公務員法規定。地方の場合は地方公務員法で「国の定年を基準として条例で定める」とされ、条例でそれぞれ規定されている。
 定年後は、「再任用」制度(民間での再雇用に相当)がある。2013年からは、年金受給との接続のため、希望者全員を年金受給開始年齢まで再任用している。
 一方、民間企業の場合は、高年齢者雇用安定法で、65歳までの雇用確保措置が義務づけられている(2006年以降段階的に施行)。具体的には、a)65歳まで継続雇用(再雇用など)、b)65歳まで定年引上げ、c)定年廃止、のいずれかが求められる。現状では、a)再雇用など:77.9%、b)定年引上げ:19.4%、c)定年廃止:2.7%(厚労省・令和元年「高年齢者の雇用状況」集計結果)より)。

https://www.mhlw.go.jp/content/11703000/000569181.pdf

 今国会では高年齢者雇用安定法改正がなされた。人生百年時代に向けた「働き方改革」の一環で70歳までの努力義務が追加されたが、再雇用などでも構わないことは同じだ。


2、なぜ公務員で「定年引上げ」を先行するのか?
 今回の国家公務員改正は、公務員につき「65歳定年への引上げ」を段階的に実施し、給与水準は60歳時点の7割水準とする。地方公務員についても、これを基準に条例で定めることになる。
 公務員の「65歳定年」の議論は長年あった。しかし、政府はなかなか法案提出に踏み切らずにきた。これは、民間では再雇用が主流の中で、公務員だけ先行して定年を引き上げれば、より安定した好待遇を与えることを意味し、「公務員優遇」との批判が出かねないと警戒していたためだ。
 だが、公務員で先行すること自体は、必ずしもおかしなことではない。かつて「60歳定年」を実施した際は、公務員で1985年から実施、民間では1986年に努力義務、1994年に義務化。公務員先行だった。日本では、官で先行実施することで民に広がる効果も大きい。「高齢者の雇用を拡大する」との施策目的を実現するうえでは、公務員先行は有効な選択肢になる。

 

3、「定年引上げ」で何が起きるか?
 問題は、今実施すべきかどうかだ。コロナ以前の日本は、ほぼ完全雇用を達成し、顕著に人手不足の状態だった。しかし、コロナでこれは一転した。経済への影響は相当期間続き、失業拡大のおそれが否めない。世界全体で、今後の状況は不透明。就職氷河期がまた訪れる可能性も否定できない。こうした中で、高齢者雇用の拡大は、若者の仕事を奪うことにもなりかねないのでないか。
 国会でもこうした議論は垣間見えるが、深まっていない。例えば5月8日衆議院内閣委員会で佐藤茂樹議員(公明党)は、「コロナにより、経験したことのない経済情勢悪化の中、民間の人たちは不安定に耐えている。民間企業に先駆けて公務員の定年引上げがなぜ必要か」と質問。これに対し、大臣の答弁は、「総がかりで力をあわせる社会へ」、「これから多くの職員が60歳を迎える」、「高齢職員の知識、技術、経験を最大限活用する必要がある」などと、全くかみあわなかった。
 公務員については、かねてより年功序列の問題もあった。年功序列で定年まで昇進・昇給を続け、それ以降も組織にとどまるようなことが横行すれば、組織の沈滞・活力低下にもつながる。こうした問題にどう対処するのかも、さらに議論が必要だ。

 

【文責:原英史】

 

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